2005年 07月 28日
視聴者が実現したビデオ・オン・デマンド |
ビデオ・オン・デマンドの究極の形とは、どのようなものなのだろう。わたしは、やはり推薦(レコメンデーション)機能が不可欠ではないかと思う。何千、何万と番組があって「好きな番組を見ていいよ」と言われても、番組表に目を通すのでけでうんざりするだろう。やはり過去にどんな番組を見てどんな番組が面白かったか、といった視聴者の嗜好をデータとして自動的に収集し、視聴者の嗜好に合った番組を自動的に推薦するという仕組みが欲しい。使えば使うほど、使い勝手のよくなる仕組みだ。
もともと視聴者のビデオ・オン・デマンドに対する要望はそれほど強くないとわたしは思う。だから数多くの番組を取り揃えていますという品揃えだけではだめで、推薦機能が完成し使い勝手が非常に優れたものになって初めてビデオ・オン・デマンドが一般視聴者に受け入れられるのだと思う。
では次にビデオ・オン・デマンドの現状を見てみよう。1990年代前半に米メディア大手のタイム・ワーナーなどが実証実験を行っている。その際には、いよいよ好きな番組を好きなときに見ることのできる時代が始まるかのような報道があった。しかし、実験はいつの間にか中止になっていた。恐らくビデオ・オン・デマンドには膨大なコストがかかる一方で、ビデオレンタル料金並みに使用料を抑えることができなかったのだろう。
その後、ブロードバンド回線の普及やコンピューター機器の高性能化などといった状況の改善はみられた。それでも無限のごとく作成され続けるテレビ番組や映画などの映像コンテンツを配信するためには、ネットの基幹回線は細過ぎて、簡単にデータ渋滞を巻き起こしてしまうという事実は変わっていない。同じ番組を何千万人に届けるという目的のためには、ネットよりも放送のほうが現状では優れた方法といえる。
ビデオ・オン・デマンドの仕組み作りは現状では困難だし、視聴者からもビデオ・オン・デマンドを求める声が高まっているわけではない。ということで、テレビ局はここ何年か、ビデオ・オン・デマンドのプロジェクトを積極的に進めてこなかった。テレビ局がビデオ・オン・デマンドを提供してくれないのなら、視聴者が自分たちで実現するとばかりに普及したのが、デジタル・ビデオ・レコーダーだ。DVDレコーダーやHDDレコーダーとも呼ばれる。松下電機産業の「ディーガ」やソニーの「すご録」といったテレビ番組録画機器だ。
これらの機器は、ビデオ・カセット・レコーダーの記憶媒体がカセットテープだったのが、DVD、HDDといったパソコン関連の記憶媒体に変わっただけだ、という見方もできる。しかし記憶媒体の変化で記憶容量が大幅に増加したことで、視聴パターンが「あとで見るために録画する」から「とりあえず録画しておいて、見るかどうかはあとで決める」に変化している。
50万円も出せば在京キー局5局とNHKの番組を24時間、1週間分録画できるという機器を購入できる。こうした電子機器は、1年半で性能が2倍になるといわれている。つまり同じ性能の機器なら1年半で価格が半分になるわけだ。ということは50万円の機器は1年半後には25万円になる。3年後には12万円。4年半後には6万円前後。ここまで価格が下がれば、一気に普及する可能性がある。「放送と同時に見る」という視聴パターンは傍流に追いやられ「一度録画したものを見る」が主流になる日はそう遠くない。
またデジタル・ビデオ・レコーダーは、ビデオ・カセット・レコーに比べて幾つかの優れた特性を持つが、そのうちの1つにランダム・アクセスというものがある。テープのように巻き戻し、早送りに時間がかからない。目的のデータに一瞬にしてアクセス可能ということだ。この特性を使えば、見たい場面にすぐにジャンプできる。コマーシャルを飛ばすことができるわけだ。
野村総合研究所によると、HDDレコーダー利用者の過半数がコマーシャルの80%をスキップしているという。これにより企業の2005年のレビ広告費の約2.6%が無意味となり、その損失総額は約540億円に上ると試算している。
また野村総研は、国内におけるHDDレコーダーの普及率は2005年の15.2%から、2009年には44.3%まで増加するとみており、今後テレビコマーシャルの価値はさらに低下していく可能性があるとしている。
野村総研のこの予測に関して、「HDDレコーダーの利用者は視聴率調査から既に除外しているので広告費の無駄にはなっていない」とか、「試算が間違っている」といった反論が出ている。テレビ局関係者にとって、看過できない報告書であることは分かる。反論せずにはいられないだろう。試算が間違っているかどうかわたしには分からない。分からないが、デジタル・ビデオ・レコーダー購入後の自分の経験からみて、かなりの部分のコマーシャルは飛ばされる運命にあると感覚的に思う。デジタル・ビデオ・レコーダーが今後、テレビ録画機器の主流になることもほぼ間違いないだろう。「テレビコマーシャルの価値が低下する可能性がある」とする野村総研の主張自体は間違いではないとわたしは思っている。
コマーシャルを主な収益源にするテレビ局のビジネスモデルが崩壊しようとしているわけだ。
テレビ局側には、私的録画補償金をメーカーに課金する考えもあるようだが、それだけで問題が解決するかどうかは疑問だ。テレビ視聴の形の変化は時代の流れであり、録画補償金をメーカーに課すだけではこの流れを変えられない。時代の流れに逆流するのではなく、流れに乗って未知の荒野を切り開いていく心構えが必要なのではなかろうか。
参考資料:miamoto.net「インターネットに放送の代わりはできない。」
http://miamoto.net/archives/000267.html
HDDレコーダ利用者の過半数がCMの80%をスキップ、540億円の損失へ
野村総合研究所、2005年05月31日
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/biz/378044
著者注:ようやく次の本の執筆に取り掛かりました。できたものからアップしていきます。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
もともと視聴者のビデオ・オン・デマンドに対する要望はそれほど強くないとわたしは思う。だから数多くの番組を取り揃えていますという品揃えだけではだめで、推薦機能が完成し使い勝手が非常に優れたものになって初めてビデオ・オン・デマンドが一般視聴者に受け入れられるのだと思う。
では次にビデオ・オン・デマンドの現状を見てみよう。1990年代前半に米メディア大手のタイム・ワーナーなどが実証実験を行っている。その際には、いよいよ好きな番組を好きなときに見ることのできる時代が始まるかのような報道があった。しかし、実験はいつの間にか中止になっていた。恐らくビデオ・オン・デマンドには膨大なコストがかかる一方で、ビデオレンタル料金並みに使用料を抑えることができなかったのだろう。
その後、ブロードバンド回線の普及やコンピューター機器の高性能化などといった状況の改善はみられた。それでも無限のごとく作成され続けるテレビ番組や映画などの映像コンテンツを配信するためには、ネットの基幹回線は細過ぎて、簡単にデータ渋滞を巻き起こしてしまうという事実は変わっていない。同じ番組を何千万人に届けるという目的のためには、ネットよりも放送のほうが現状では優れた方法といえる。
ビデオ・オン・デマンドの仕組み作りは現状では困難だし、視聴者からもビデオ・オン・デマンドを求める声が高まっているわけではない。ということで、テレビ局はここ何年か、ビデオ・オン・デマンドのプロジェクトを積極的に進めてこなかった。テレビ局がビデオ・オン・デマンドを提供してくれないのなら、視聴者が自分たちで実現するとばかりに普及したのが、デジタル・ビデオ・レコーダーだ。DVDレコーダーやHDDレコーダーとも呼ばれる。松下電機産業の「ディーガ」やソニーの「すご録」といったテレビ番組録画機器だ。
これらの機器は、ビデオ・カセット・レコーダーの記憶媒体がカセットテープだったのが、DVD、HDDといったパソコン関連の記憶媒体に変わっただけだ、という見方もできる。しかし記憶媒体の変化で記憶容量が大幅に増加したことで、視聴パターンが「あとで見るために録画する」から「とりあえず録画しておいて、見るかどうかはあとで決める」に変化している。
50万円も出せば在京キー局5局とNHKの番組を24時間、1週間分録画できるという機器を購入できる。こうした電子機器は、1年半で性能が2倍になるといわれている。つまり同じ性能の機器なら1年半で価格が半分になるわけだ。ということは50万円の機器は1年半後には25万円になる。3年後には12万円。4年半後には6万円前後。ここまで価格が下がれば、一気に普及する可能性がある。「放送と同時に見る」という視聴パターンは傍流に追いやられ「一度録画したものを見る」が主流になる日はそう遠くない。
またデジタル・ビデオ・レコーダーは、ビデオ・カセット・レコーに比べて幾つかの優れた特性を持つが、そのうちの1つにランダム・アクセスというものがある。テープのように巻き戻し、早送りに時間がかからない。目的のデータに一瞬にしてアクセス可能ということだ。この特性を使えば、見たい場面にすぐにジャンプできる。コマーシャルを飛ばすことができるわけだ。
野村総合研究所によると、HDDレコーダー利用者の過半数がコマーシャルの80%をスキップしているという。これにより企業の2005年のレビ広告費の約2.6%が無意味となり、その損失総額は約540億円に上ると試算している。
また野村総研は、国内におけるHDDレコーダーの普及率は2005年の15.2%から、2009年には44.3%まで増加するとみており、今後テレビコマーシャルの価値はさらに低下していく可能性があるとしている。
野村総研のこの予測に関して、「HDDレコーダーの利用者は視聴率調査から既に除外しているので広告費の無駄にはなっていない」とか、「試算が間違っている」といった反論が出ている。テレビ局関係者にとって、看過できない報告書であることは分かる。反論せずにはいられないだろう。試算が間違っているかどうかわたしには分からない。分からないが、デジタル・ビデオ・レコーダー購入後の自分の経験からみて、かなりの部分のコマーシャルは飛ばされる運命にあると感覚的に思う。デジタル・ビデオ・レコーダーが今後、テレビ録画機器の主流になることもほぼ間違いないだろう。「テレビコマーシャルの価値が低下する可能性がある」とする野村総研の主張自体は間違いではないとわたしは思っている。
コマーシャルを主な収益源にするテレビ局のビジネスモデルが崩壊しようとしているわけだ。
テレビ局側には、私的録画補償金をメーカーに課金する考えもあるようだが、それだけで問題が解決するかどうかは疑問だ。テレビ視聴の形の変化は時代の流れであり、録画補償金をメーカーに課すだけではこの流れを変えられない。時代の流れに逆流するのではなく、流れに乗って未知の荒野を切り開いていく心構えが必要なのではなかろうか。
参考資料:miamoto.net「インターネットに放送の代わりはできない。」
http://miamoto.net/archives/000267.html
HDDレコーダ利用者の過半数がCMの80%をスキップ、540億円の損失へ
野村総合研究所、2005年05月31日
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/biz/378044
著者注:ようやく次の本の執筆に取り掛かりました。できたものからアップしていきます。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-07-28 09:05
| 本の原稿