2005年 11月 09日
見出しに著作権はあるのか、直接リンクを禁止できるのか |
▼見出しに著作権はあるのか、直接リンクを禁止できるのか
実は、グーグルニュース以前にも、記事への直接リンクに関し何度かトラブルが発生していた。ワールドワイドウェブとは、蜘蛛の巣のように相互に自由自在にリンクを張ることができる仕組みのことを意味する。そういった仕組み、文化の中で、記事への直接リンクを禁止したのだ。ネット上の他のプレーヤーと衝突しないわけはなかった。
2003年のことだ。「連邦」という名前の個人ホームページがネット上の産経新聞の記事の見出しにコピーしリンクを張ったことに対し、産経新聞の電子メディア担当部署の次長が「連邦」の運営者に対し「(サイト内の記事への直接リンクは)著作権等の侵害に当たります。即刻記事掲載を中止してください」という内容のメールを送った。丁寧な表現ながら法的措置をちらつかせる内容に憤慨した運営者は、メールをホームページ上で公開したところ3日間で1万件を超えるコメントが寄せられるなどの盛り上がりをみせた。ほとんどの意見は「直接リンクを合法」とするもので、中には「産経の弱い者いじめだ」として産経新聞に対し抗議運動を起こそうという声も出始めた。騒ぎに驚いた産経新聞は、電子メディア部署に代わって法務室が対応。「連邦」の運営者からの電話に丁重に対応し「記事への直接リンク禁止はあくまで要望に過ぎない」と答えたことなどで、なんとか騒ぎは収まった。
この一件で報道関係者は、少なくとも個人を相手に高圧的な態度に出れば逆効果であることを認識した。しかしそれでも報道機関の多くは、「記事への直接リンクはご遠慮願います」という「要望」を維持し続けた。
グーグルニュースのサービス開始の直前にも、日本のベンチャー企業がグーグルニュースと同様の仕組みでニュースサイトを構築しようとしたことがあった。その企業に対し、複数の報道機関が苦情を呈し、サービス中止に追い込んでいる。
法廷論争になったものもある。神戸市のベンチャー企業、デジタルアライアンスはヤフーニュースから報道機関配信の記事の見出しをコピーし「1行ニュース」として電子掲示板のような体裁にしたサービスを販売していた。見出しをクリックすれば、ヤフーニュースの元記事に飛ぶようにリンクが張られていた。こうしたサービスは記事の著作権を侵害しているとして、読売新聞が提訴した。グーグルニュースが始まった時点では、第一審で読売が敗訴したものの、控訴審で係争中だった。
話が横道にそれたついでに、さらに横道にそれると、控訴審では、見出しの著作権侵害は認められなかったが、法的保護を受けることができる、との判決が下っている。わたしは法律の素人なので、著作権のことはよく分からない。ただこの問題に関しては、わたしの友人の法学者、塩澤一洋・スタンフォード大学法律大学院客員研究員にいろいろと教えていただいたことがある。塩澤さんのお話を踏まえた上で、素人なりに次のように理解している。
見出しに創意工夫がないか、といえば、あると思う。新聞記事を書く上で、見出しが決まれば記事は半分完成したようなものだ。特に通信社原稿の場合、配信先の新聞社に使ってもらうためには、まず見出しで新聞社の編集者の注意を引かなければならない。そこでいい見出しを考え出すために、うんうんと頭をひねるのである。
まるで子供の名前を考えるときのようだ。子供の名前といえば、子供の名前こそ創意工夫の塊のようなものである。自分の子に幸せになってもらいたいと思って、どの親でも頭をひねるのだ。
では子供の名前に著作権があるか、小学校の名簿に記載されることを拒否できるか、というと、答えは「ノー」だろう。名前を使用せずには、社会生活を送ることは不可能だからだ。では名簿業者が小学校の名簿を買い取り、別の目的に使用すればどうだろう。それは個人情報の乱用ということで、法的手段に訴えることが可能かもしれない。
同様に、見出しは記事の「名前」である以上、創意工夫があったとしても著作権侵害を理由に使用の差し止めを命じることは難しい。しかし第3者が新聞社の記事の見出しを集めて「トップニュースの見出し」として販売すれば、商法違反で抗議できると思う。それは「他人のふんどしで相撲を取る」行為だし、新聞社が同様のサービスを行っていた場合は、営業妨害に当たるからだ。
控訴審の判決に関する記事を読んで、この考え方で大きく間違っていなかった、と思っている。見出しに著作権は認められないが、商法上の法的保護の対象にはなりえる。著作権侵害ではなく、営業妨害で訴えることができる、というわけだ。
控訴裁の判決の理由の1つは、デジタルアライアンスの1行ニュースは「無断かつ営利目的で見出しを使い、社会的に許される限度を越えている」というもの。無断で営利目的ではだめ、許可を得て営利目的でなければいい、ということだろう。
グーグルニュースのページには広告さえも掲示されていない。つまり営利目的ではないので、合法とみなしてもいいのかもしれない。
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
実は、グーグルニュース以前にも、記事への直接リンクに関し何度かトラブルが発生していた。ワールドワイドウェブとは、蜘蛛の巣のように相互に自由自在にリンクを張ることができる仕組みのことを意味する。そういった仕組み、文化の中で、記事への直接リンクを禁止したのだ。ネット上の他のプレーヤーと衝突しないわけはなかった。
2003年のことだ。「連邦」という名前の個人ホームページがネット上の産経新聞の記事の見出しにコピーしリンクを張ったことに対し、産経新聞の電子メディア担当部署の次長が「連邦」の運営者に対し「(サイト内の記事への直接リンクは)著作権等の侵害に当たります。即刻記事掲載を中止してください」という内容のメールを送った。丁寧な表現ながら法的措置をちらつかせる内容に憤慨した運営者は、メールをホームページ上で公開したところ3日間で1万件を超えるコメントが寄せられるなどの盛り上がりをみせた。ほとんどの意見は「直接リンクを合法」とするもので、中には「産経の弱い者いじめだ」として産経新聞に対し抗議運動を起こそうという声も出始めた。騒ぎに驚いた産経新聞は、電子メディア部署に代わって法務室が対応。「連邦」の運営者からの電話に丁重に対応し「記事への直接リンク禁止はあくまで要望に過ぎない」と答えたことなどで、なんとか騒ぎは収まった。
この一件で報道関係者は、少なくとも個人を相手に高圧的な態度に出れば逆効果であることを認識した。しかしそれでも報道機関の多くは、「記事への直接リンクはご遠慮願います」という「要望」を維持し続けた。
グーグルニュースのサービス開始の直前にも、日本のベンチャー企業がグーグルニュースと同様の仕組みでニュースサイトを構築しようとしたことがあった。その企業に対し、複数の報道機関が苦情を呈し、サービス中止に追い込んでいる。
法廷論争になったものもある。神戸市のベンチャー企業、デジタルアライアンスはヤフーニュースから報道機関配信の記事の見出しをコピーし「1行ニュース」として電子掲示板のような体裁にしたサービスを販売していた。見出しをクリックすれば、ヤフーニュースの元記事に飛ぶようにリンクが張られていた。こうしたサービスは記事の著作権を侵害しているとして、読売新聞が提訴した。グーグルニュースが始まった時点では、第一審で読売が敗訴したものの、控訴審で係争中だった。
話が横道にそれたついでに、さらに横道にそれると、控訴審では、見出しの著作権侵害は認められなかったが、法的保護を受けることができる、との判決が下っている。わたしは法律の素人なので、著作権のことはよく分からない。ただこの問題に関しては、わたしの友人の法学者、塩澤一洋・スタンフォード大学法律大学院客員研究員にいろいろと教えていただいたことがある。塩澤さんのお話を踏まえた上で、素人なりに次のように理解している。
見出しに創意工夫がないか、といえば、あると思う。新聞記事を書く上で、見出しが決まれば記事は半分完成したようなものだ。特に通信社原稿の場合、配信先の新聞社に使ってもらうためには、まず見出しで新聞社の編集者の注意を引かなければならない。そこでいい見出しを考え出すために、うんうんと頭をひねるのである。
まるで子供の名前を考えるときのようだ。子供の名前といえば、子供の名前こそ創意工夫の塊のようなものである。自分の子に幸せになってもらいたいと思って、どの親でも頭をひねるのだ。
では子供の名前に著作権があるか、小学校の名簿に記載されることを拒否できるか、というと、答えは「ノー」だろう。名前を使用せずには、社会生活を送ることは不可能だからだ。では名簿業者が小学校の名簿を買い取り、別の目的に使用すればどうだろう。それは個人情報の乱用ということで、法的手段に訴えることが可能かもしれない。
同様に、見出しは記事の「名前」である以上、創意工夫があったとしても著作権侵害を理由に使用の差し止めを命じることは難しい。しかし第3者が新聞社の記事の見出しを集めて「トップニュースの見出し」として販売すれば、商法違反で抗議できると思う。それは「他人のふんどしで相撲を取る」行為だし、新聞社が同様のサービスを行っていた場合は、営業妨害に当たるからだ。
控訴審の判決に関する記事を読んで、この考え方で大きく間違っていなかった、と思っている。見出しに著作権は認められないが、商法上の法的保護の対象にはなりえる。著作権侵害ではなく、営業妨害で訴えることができる、というわけだ。
控訴裁の判決の理由の1つは、デジタルアライアンスの1行ニュースは「無断かつ営利目的で見出しを使い、社会的に許される限度を越えている」というもの。無断で営利目的ではだめ、許可を得て営利目的でなければいい、ということだろう。
グーグルニュースのページには広告さえも掲示されていない。つまり営利目的ではないので、合法とみなしてもいいのかもしれない。
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-11-09 01:00
| 本の原稿