経営者は焦り始める。社内の周りの人間に相談するのだが、日頃の話し相手である中間管理職は有効な答えを持っていない。まさか30代の若手からアイデアをもらうわけにはいかない。そこでほかの社の経営者や、業界団体、関連企業トップなどと意見交換する。
同じような考えを持っている人たちとの意見交換だから、自分の漠然とした思いに自信を持つ。やはり以前から考えていることは正しいのだと、それを実行に移す。
▼1つは有料化
経営者層が以前から考えていることとは何だろう。新聞業界の場合だと、1つはニュースの有料化である。
「ネット上でニュースを無料で出したことが間違い。愚策だ」と怒るベテラン記者を何人か知っている。新聞協会の会合でも、ニュースを有料にすべきだ、という意見がよく出るという。純粋に広告で運営されているテレビ局と違って、新聞社は購読料、通信社は配信料という形でニュース記事を販売している。今まで代金を得ていたものだから、無料で出していることに抵抗感があるのだろう。
ネット上で無料でニュースが読めるので、新聞が売れなくなったという思いもあるだろう。
具体的にどういう形を取るのかは、それぞれの社によって異なるだろうが、ニュースの有料化、もしくは有料化に向けた具体的検討ということが、これからの1つの傾向になるように思う。
経営者がやりそうなもう1つのことは、ネット企業への対抗である。
2005年のライブドアや楽天による既存メディア企業買収騒動は、既存メディア関係者を驚愕させた。ネット産業はいつの間に、われわれを買収しようと思うほど大きくなったんだー。多くの既存メディアにとって、ネット企業による買収騒動は、まさに晴天の霹靂だった。
しかも現状をみると、ネット企業へ記事を配信している。今までは紙の新聞の事業や電波を通じた放送事業が本業で、ネット事業をおまけのような存在だったら、別にそんなことは気にならなかった。しかしこれからネット事業を収益の柱にするのであれば、いつまでも下請業者のような立場に甘んじているわけにはいかない。
これからは明らかにネット企業へのライバル意識をむき出しにした新事業を次々と打ち出してくるだろう。ネット事業で同業他社や関連企業と手を組むことも増えるだろう。事実、2005年には、TBS、フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京の在京キー局と電通は、インターネット上の映像コンテンツ配信に関する事業会社設立に向けて共同検討を開始した、と発表している。発表文を読んでも、どのような具体的なアイデアがあるのかは書かれていない。まず手を組んでネット企業に対抗する、という目的から、とりあえず動き出したということろだろう。今後、新聞業界が同様の共同戦線戦略に乗り出しても何の不思議もないと思う。
▼左手で握手、右手はこぶし
とはいってもネット企業とメディア企業がすぐにでも全面戦争を始めるのか、といえば、そんなことはないと思う。新聞記事を始めとするメディアコンテンツは製作コストがばかにならない。ネット企業にとっては、自分たちで作るより、メディア企業から仕入れたほうが余程安くつく。メディア企業は、コンテンツ配信料の値上げを含む共存共栄策をメディア企業に提示するなどして、これまでの関係を維持していこうとするだろう。
メディア企業にとっても、ネット企業ほどのネット事業のノウハウを持っていないので、当面はネット企業とうまくつきあっていくしかない。左手で握手しながら、いつでも相手を殴れるように右手はこぶしを握りしめる。全面戦争の可能性を秘めたそんな緊張関係が、あと何年かは続くだろう。
ただ言えることは、既存メディア、特に大手の経営者、中堅幹部には、これまで自分たちが情報市場、情報ハブを押さえてきたというプライドがある。メディア事業において新参者のネット企業の軍門にくだることは、そのプライドが許さない。大手メディア企業とネット企業が衝突する日は、いずれくるだろう。
その際に、大手メディアは自分の持つ流通経路上のメディアコンテンツの流通を制御する手に打って出るだろう。ただその制御の仕方を間違えば、情報の出し手やコンテンツ製作者が、読者や視聴者と直接結びつこうとする可能性がある。
時代の変化を理解し、自らそれに合わせて変革できる企業は生き残るだろうし、変化を拒む企業は津波に飲み込まれてしまう。これまで多くの業界で見ることのできた光景が今、マスメディア業界でも始まろうとしている。
脚注:電通の発表文「インターネット上の映像コンテンツ流通を活性化するための事業会社設立に向けて共同検討を開始」
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2005/pdf/2005063-1128.pdf
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。「過去エントリをそのまま記録として残すべきだ」「細かな修正を加えるたびにPINGが飛び、RSSリーダーにほぼ同じ原稿が表示されるので困る」などという意見をいただきましたので、ご意見、ご指摘をいただいても、エントリ自体を修正しないことにしています。ですが、建設的なご指摘、ご意見は、最終原稿に必ず反映させるつもりです。繰り返しになりますが、本エントリは未完成原稿です。引用を希望される場合は、脚注にある原典に当たられることをお勧めします。
参考
「本を書きます」
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