ライブドアが目指す?韓国オーマイニュース |
韓国オーマイニュースのことをよく知らない人のために、どういう報道機関なのか簡単にまとめてみたい。
オーマイニュースは、ジャーナリストのオー・ヨンホさんが2000年に創設したオンライン報道機関だ。正規に雇用する記者は30~40人。ところが記事を書くのはプロの記者だけではない。登録すればだれでも記事を投稿できるようになっている。登録する市民記者数は3万数千人。まさに参加型ジャーナリズムだ。
市民記者は自分の記事が使用されればこずかい程度の原稿料が入るようになっている。しかしトップニュースになっても原稿料は2万ウォン(約2000円)。とても生活できるレベルではない。市民記者のほとんどは、収入よりもジャーナリズムに参加することに意義を感じているようだ。
オーマイニュースを世界的に有名にしたのは、2002年の大統領選挙の際の言論活動だ。既存メディアが保守一色だった中で、オーマイニュースは革新派の盧武鉉候補を支持し、同候補の当選に大きく貢献した。当選後、同候補が応じた最初の単独インタビューはオーマイニュースだった。このことをみてもオーマイニュースの支持が、同大統領の当選にどれだけ大きく貢献したかが分かる。
2003年2月の韓国南東部の大邱市で起こった地下鉄火災の際には、現場で働いた消防士が市民記者として活躍。その詳細にわたるリポートに、既存メディアは太刀打ちできなかったという。
実際にオーマイニュースはどのように運営されているのだろう。京都経済新聞社社長の築地達郎さんが、オーマイニュースを訪問し、詳しくリポートしてくれている。
ソウル中心部の官庁街。OhmyNews社はその一角に建つ賃貸オフィスビルに本社を構える。2フロアに分かれたオフィスの広さは合わせても高校の教室 4つ分ほど。編集部門の部屋では、ところ狭しと詰め込まれた机にかじりついて、20人余りのスタッフが仕事をしている。
「一番手前が取材陣、2番目の“島”は記者から上がってきた記事をチェックするニュースデスク、そして3番目が『ニュースゲリラデスク』です」。案内役のミンさんが説明してくれる。
ニュースゲリラデスク――。これこそが、市民記者とサイト読者とをつなぐ重要な結節点だ。
市民記者から寄せられる原稿は1日に150本から200本。これを4-5人のニュースゲリラデスクが1本ずつ読み、掲載の可否を判定していく。掲載率は7割程度という。
業界関係者として思うのは、市民記者の原稿は本当に使い物になるのか、ということだ。事実をどう確認するのだろう。原稿をどのように手直しするのだろう、ということが非常に気になる。
市民記者としての登録の際に合意書を交わすようになっている。その中で、広告会社やマーケティング会社の関係者はその事実を明らかにした上で投稿しなければならない、と定めている。また剽窃や名誉毀損などの問題が発生した場合、全面的に市民記者の責任になる、としている。
しかし本当にその程度の合意書で十分なのだろうか。築地さんも同じような疑問を持っていたようだ。しかし、その疑問に対する答えはあっけないものだった。
答えは意外に簡単だった。「自分の意見を書いてもらえばいいんです」とミン氏。報道機関としての土台の部分は、実は35人のプロ記者集団が支えている。ハードなニュースや分析記事はプロ記者が書き、市民記者に期待するのは「エッセイ」や「書評・映画評」「メディア評論」などなのだという。
「氏名などコンファームしなければならないことは、書き手本人に電話をかければほぼ解決する場合が多い」とも。書き手本人の回答が不明朗なときはボツにすればいい。それだけのことだ。
オー社長本人も英ガーディアンのインタビューに対し「70%の市民記者は身の回りのことを書いている。西洋のジャーナリストから市民記者にプロ並みの報道ができるのか、という質問を受けることがある。誤解しているようだが、プロ並みの報道をしている市民記者はほとんどいない」と語っている。
オー社長は「(市民記者には、一般的な)ニュースの形式を気にしなくていい、と言っている。プロの真似はしなくていい、自分自身の言葉で語っていいんだ、と強調している」と言う。
ただ市民記者の中でもプロとして通用する人もいる。そういう人を積極的に雇用する。オーマイニュースのプロの記者の8割は、市民記者出身だという。
米ワイヤードの報道によると、オーマイニュースの読者という韓国系米国人の男性は「(オーマイニュースの記事は)人間味にあふれている。従来型マスコミの無味乾燥の客観報道ではない。もちろん独断も偏向もある。プロの記事ではないかもしれない。でも何が事実なのかは分かる。わたしは信頼している」と語っている。
ガーディアンは従来の報道を「講義型のニュース」とすると、オーマイニュースは「議論型のニュース」と評している。
読者も従来型の報道とは異なるものと認識して読んでいるのかもしれない。これまで剽窃や名誉毀損の裁判沙汰はほとんどないという。
オー社長によると、35人の専属記者も活躍している。2002年には現代グループと北朝鮮の関係に関する特ダネをつかんでいる。既存マスコミとでは記者の数が違うので、専属記者は、政治問題と社会問題を集中的に取材、報道しているという。
それでは、収益性はどうなのだろう。築地さんは次のように報告している。
収益的にも成功と言える段階に来ている。収入の額は非公開としているが、収入の7割が広告で「そのうち週刊のダイジェスト紙(10万部)の広告が 20%」(ミン氏)。週刊ダイジェスト紙を創刊した1年ほど前の現地からの報道では「紙を出したことでようやく収支が合った」と言われていたから、この1 年間にネット上の広告が大幅に増えたことになる。
実際、サイトを見ると、LGやサムスン、SKテレコム、POSCOといった優良大手企業がこぞって広告を出稿するようになった。訪問時にもらったA4版の英文会社案内にも、大手企業の広告が大量に入っていた。
このほかに、ポータルサイトなどへのコンテンツ外販が収入の2割を占めるようになった。そして、残り1割は、読者から市民記者への“投げ銭”を仲介する手数料収入だという。“投げ銭”は携帯電話からのボタン指示で送る方式だ。
オーマイニュースのオー社長は、同社が成功した理由を韓国独特のものとしている。
理由の1つは、韓国の既存メディアが保守寄りで、国民は別の議論を求めていたから。2つ目は、国民の75%がブロードバンド接続というネット先進国だから。3つ目は、韓国の国土が狭く、市民記者の記事の裏を取るために現場に向かう場合でも、2時間以内に現場に到着できること。4つ目の理由として、社会の関心が少数の問題に集中するという国民性を挙げている。そして最大の理由として、20代、30代の若者は革新的な考えを持っていて、実際に活動に参加する若者が多いからだとしている。
オー社長は「技術だけでは社会は変わらない。(変化を受け入れる)用意ができた人が社会を変えるのだ」と言う。
オー社長は、参加型ジャーナリズムの確立を目指す人たちが日本からオーマイニュースを視察にきたが、日本ではまだ成功と呼べる段階にないと語っている。恐らくJAN-JANのことを指しているものと思われる。
オー社長の言うように、オーマイニュース型の参加型ジャーナリズムをそのまま日本に持ち込んでも、うまく行かないかもしれない。それに参加型ジャーナリズムは何もニュースサイトの形を取る必要はないと思う。新聞業界が中心的役割を果たすのかどうかは別にして、日本は日本に合った参加型ジャーナリズムの形を模索していけばいいのだ。
今年5月31日にイスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合で講演したオー社長は次のように語っている。
「オーマイニュースをスタートさせたのは2000年の2月22日午後2時20分です。2の数字が並んだ日時を選んだのは、20世紀型のジャーナリズムとは決別し、21世紀の新しいジャーナリズムを確立したいと思ったからです」「(市民記者は)だれが記者であり、どういう記事の書き方がよくて、どういうものにニュース価値があるか、という既存メディアのこれまでの常識を打ち破ろうとしています」「参加型ジャーナリズムは世界中に広がり、21世紀のジャーナリズムの中核になると信じています」。
オー社長の言うように、日本にも新しいジャーナリズムの時代が必ずやってくるだろう。これはわたしの確信であり、希望でもある。
参考資料
▼米ガーディアン「Hacks of all trades」(2004年7月22日)
〇「スタート当時、市民記者は727人だったが、今では3万3000人以上が市民記者として登録している。そのうち1万7000人はこれまで少なくとも1本は記事を書いている」(オー社長)
〇オー社長は米国のリージェント大学の修士課程在籍中にオーマイニュースのアイデアを思いついた。
〇2004年2月に英語の国際版を開始
〇「このビジネスモデルをほかの国でも展開したい」(オー社長)。オーマイニュースが開発したソフトを、コンサルティングなどのサービスと合わせて販売していきたい、としている。
〇市民記者の76.6%が男性。40%近くが20代。職業別では、学生(19.7%)、会社員(15.5%)、ジャーナリスト(7.1%)。
〇ライブのウェブキャスティングも行っている。盧大統領の弾劾に反対するデモを約10時間に渡って生中継した。市民記者がニュースキャスターになる番組も放送している。
〇来年にはサイトの大幅刷新を計画。携帯電話からの写真の投稿などを大幅に取り入れていくという
▼イスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合でのオー社長の講演(5月31日)
The End of 20th Century Journalism:
Oh Yeon Ho's conference speech in Istanbul
http://english.ohmynews.com/articleview
〇34歳のサラリーマン、Lee Bong Ryulさんは4年間で約400本の記事を書いた。平均的なアクセス件数は1万件を超えている。
〇39歳の事業主Ko Tae Jinさんは、週に1、2本のコラムを書きつづけている人気コラムニスト。平均アクセス件数は2万件以上。
〇スタート当時は4人の専属記者を抱えていたが、今は35人。
〇市民記者のコンテンツと、専属記者のコンテンツとのバランスに気をつけている。