2005年 03月 10日
記者はもっとネットを利用すべき |
わたしは恐らく日本で最も早く、取材、情報収集にネットを利用し始めた新聞記者の一人だと思う。「ネットで情報を集めるようなヤツは記者じゃない」という考えが支配的だったときでも、わたしはせっせとネットを利用した。たいした能力もない自分がある程度の仕事をこなせてこれた最大の理由は、ネットを利用してきたからだと思っている。内容はともかく、余りに多くの記事を書くので、不思議に思う同僚も多かったようだ。「アイツはネットを使っているからあれだけの仕事をこなせるんだ」という陰口が聞こえてきた。「だれのことだかは知らないけれどネットで情報を集める記者が最近はいるみたいだね。情けないヤツらだね」と面と向かって批判する人も何人かいた。
わたしは取材よりもネットサーフィンが好きなわけではない。いろいろな人と直接会って話をするのが大好きだからこの仕事を続けている。ただ人と会う前には、自分で簡単に集めることのできる情報くらい集めてから会うのが礼儀だと思っている。またネットで取れる情報はネットで取り、ネットで取れない情報を取材を通じて入手することが自分の付加価値だと思っていた。だからなぜみんながネットを毛嫌いするのか、よく分からなかった。
ネット利用は剽窃、盗作を助長するからだという主張がある。しかしそれは個々人のモラルの問題ではなかろうか。ベテラン記者は後輩記者に「モラルをもって仕事するように」と勧めるべきで、「君らは弱い心を持っているので情報に触れないように」と勧めてどうするのだろう。
実は別のブログで以前「ネットを活用する記者はダメ記者か」というエントリーを書いたことがある。そのときは以下のような反論がきた。
「ネット利用が剽窃を生むのではない。モラル低下が剽窃を生むのだ」というのは一方的にすぎる言い方だと思います。ネットがなければモラルが低下しなかった人は確実にいると思います。あまり簡単にある程度の情報収集ができてしまうがゆえ依存体質に陥ってしまうことを「本人の責任」というのは簡単ですが、本当に「本人の責任」だけでしょうか?
前回のエントリーからちょうど約1年。なぜ同様の主張を再びするのかというと、ベテラン記者が何を言おうと現場記者のネット利用は確実に増えているからだ。昨年末からだけでも、「このブログを見た」という取材依頼がどれほど増えているか。TBS、NHK、AERA、日本版ニューズウィークなどが取材を申し込んできた。やっぱり現場記者はネットを使っているんだ。ベテラン記者のみなさん、「ネットを使うやつはダメ記者だ」というのをもうそろそろやめませんか?
わたしが記者にネット利用を勧めるのには、もう一つ理由がある。情報ビジネスの中で、グーグルニュースのような機械が作り出すコンテンツ、ブログのように一般市民の作り出すコンテンツがますます増えてくる。今は記者が作り出すコンテンツが「主」で、機械、市民の作り出すコンテンツは「従」の感じがある。しかし、この主従関係が逆転する可能性もあるように思う。機械、市民のコンテンツはどのようなものなのか、それに負けないプロのコンテンツはどのようなものにすべきなのか、こうした肌感覚をつかむためにも日頃からネットに親しんでおくべきだと思う。でなければ、せっかく「足」で集めてきた情報がネット上で既報ということになりかねない。
報道は、情報を扱うのが仕事。その情報の流通の場としてネットの重要性はますばかり。その場に慣れ親しんでなくて、新しい情報ビジネスなど作っていけないのではないか、と思うのだが、どうだろうか。一年前に比べて読者も増えているし、ネット利用する記者も増えている。今回はどのようなコメントが寄せられるのか、楽しみだ。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-03-10 01:22