2005年 09月 15日
▼音楽業界を襲った激変 |
▼音楽業界を襲った激変
ホリエモン騒動で危機感を抱いたからかどうか知らないが、日本でも自らビデオ・オン・デマンドに乗り出すテレビ局が増えている。果たしてテレビ局にとって、大きな収益の柱に育つのか。それとも一過性のものなのか。今後もいろいろ試行錯誤が続くのだろうか。
マスメディアの近未来像はどのような形になるのだろうか。そのヒントは、レコード業界のここ何年かの激変ぶりの中に見ることができるかもしれない。
欧米のレコード業界は早い時点から、ミュージック・オン・デマンド事業、つまり音楽ネット配信事業に取り組んできた。
ところがこうした試みが広く普及することはなかった。ネット上での音楽の不正コピーは相変わらず盛んで、業を煮やしたレコード会社は不正コピーを続ける消費者を相手に損害賠償訴訟を次々と起こしていた。これに一部消費者やリベラルなマスコミが猛反発した。レコード業界には「時代遅れの悪役」のイメージがつき、消費者との関係は最悪になった。事態は悪化するばかり。だれもが打開策を求めていた。
そこにアップルコンピュータが登場した。アップルの音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」は非常に使い勝手に優れていた。料金体系も分かりやすかった。しかもパソコンに取り込んだ音楽を簡単に携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」に転送することができた。若者たちはiPodに飛びついた。iTunesも順調に売り上げを伸ばした。音楽の不正コピーは減少しているといわれる。レコード会社にできなかったことを、パソコンメーカーがやってのけたのだ。
なぜアップルは成功したのだろうか。理由は幾つか挙げられている。1つは、レコード会社の壁を越えて多くの楽曲を集めることに成功したからだろう。選択肢が無数にあるのがオンデマンド。特定のレコード会社の楽曲しかそろっていないようなサービスはオンデマンドとは呼べない。
2つ目は、パソコンに取り込んだ楽曲を簡単にiPodに転送できること。わたしはこれまで多くの新技術、新ビジネスを取材してきた。成功した技術、事業も多く見てきたし、それ以上に失敗した技術、事業も多く見てきた。その中で気づいたことは、成功と失敗の間にはほんの少しの違いしかない場合が往々にしてあるということだ。ちょっとした使い勝手のよさが技術や事業を成功させることがあるのだ。iPod、iTunesは、先行する同様のサービスより使い勝手が少しよかったのではなかろうか。
3つ目の成功の理由は、アップルの企業イメージだろう。レコード会社の幹部の一人は米誌ビジネスウィークの取材に対し、アップルの企業イメージの重要性を指摘している。アップルは一部クリエーターや若者の間で絶大なる人気を誇っている。ファイル交換技術を使って楽曲を無料でコピすることが「常識」になりつつある流れを食い止めることができるのは、お金を払って楽曲をダウンロードすることが「かっこいい」というイメージを作り上げることができる企業だけだった。それができるのはアップルを含むごく少数の企業だけだ。アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者のネット配信サービスに協力することで、レコード大手各社の幹部は不正コピーを撲滅したかったのだろう。
不正コピーの撲滅の代償に、レコード大手各社は大事なものを失うことになる。ネット上の音楽売買市場の覇権だ。
アップルは、ネット配信の経路というボトルネック部分を押さえることで絶大なる影響力を握ることになる。過去の成功したビジネスの多くが、ボトルネック部分を押さえることで成功したように・・・。
市場の覇者となったアップルは、iPodの売り上げが好調で業績を拡大し続けている。iPodを利用したラジオ番組のネット配信など、iPodの周辺で新しいサービスが次々立ち上がろうとしている。
音楽メディアの世界では、新規参入のIT企業が既存プレーヤーを押さえて市場の覇者になったわけだ。
この原稿を書いている時点で、日本のiTunesでは、ソニーの楽曲が利用できないようになっている。それはソニーもまた自社のネット配信サービスで流通経路というボトルネック部分を押さえ、音楽市場の覇者になることを目指しているからだ。欧米では、覇権をアップルに譲ってしまった。せめてお膝元の日本市場ぐらいは押さえたいというところなのだろう。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
ホリエモン騒動で危機感を抱いたからかどうか知らないが、日本でも自らビデオ・オン・デマンドに乗り出すテレビ局が増えている。果たしてテレビ局にとって、大きな収益の柱に育つのか。それとも一過性のものなのか。今後もいろいろ試行錯誤が続くのだろうか。
マスメディアの近未来像はどのような形になるのだろうか。そのヒントは、レコード業界のここ何年かの激変ぶりの中に見ることができるかもしれない。
欧米のレコード業界は早い時点から、ミュージック・オン・デマンド事業、つまり音楽ネット配信事業に取り組んできた。
ところがこうした試みが広く普及することはなかった。ネット上での音楽の不正コピーは相変わらず盛んで、業を煮やしたレコード会社は不正コピーを続ける消費者を相手に損害賠償訴訟を次々と起こしていた。これに一部消費者やリベラルなマスコミが猛反発した。レコード業界には「時代遅れの悪役」のイメージがつき、消費者との関係は最悪になった。事態は悪化するばかり。だれもが打開策を求めていた。
そこにアップルコンピュータが登場した。アップルの音楽配信サービス「iTunes(アイチューンズ)」は非常に使い勝手に優れていた。料金体系も分かりやすかった。しかもパソコンに取り込んだ音楽を簡単に携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」に転送することができた。若者たちはiPodに飛びついた。iTunesも順調に売り上げを伸ばした。音楽の不正コピーは減少しているといわれる。レコード会社にできなかったことを、パソコンメーカーがやってのけたのだ。
なぜアップルは成功したのだろうか。理由は幾つか挙げられている。1つは、レコード会社の壁を越えて多くの楽曲を集めることに成功したからだろう。選択肢が無数にあるのがオンデマンド。特定のレコード会社の楽曲しかそろっていないようなサービスはオンデマンドとは呼べない。
2つ目は、パソコンに取り込んだ楽曲を簡単にiPodに転送できること。わたしはこれまで多くの新技術、新ビジネスを取材してきた。成功した技術、事業も多く見てきたし、それ以上に失敗した技術、事業も多く見てきた。その中で気づいたことは、成功と失敗の間にはほんの少しの違いしかない場合が往々にしてあるということだ。ちょっとした使い勝手のよさが技術や事業を成功させることがあるのだ。iPod、iTunesは、先行する同様のサービスより使い勝手が少しよかったのではなかろうか。
3つ目の成功の理由は、アップルの企業イメージだろう。レコード会社の幹部の一人は米誌ビジネスウィークの取材に対し、アップルの企業イメージの重要性を指摘している。アップルは一部クリエーターや若者の間で絶大なる人気を誇っている。ファイル交換技術を使って楽曲を無料でコピすることが「常識」になりつつある流れを食い止めることができるのは、お金を払って楽曲をダウンロードすることが「かっこいい」というイメージを作り上げることができる企業だけだった。それができるのはアップルを含むごく少数の企業だけだ。アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者のネット配信サービスに協力することで、レコード大手各社の幹部は不正コピーを撲滅したかったのだろう。
不正コピーの撲滅の代償に、レコード大手各社は大事なものを失うことになる。ネット上の音楽売買市場の覇権だ。
アップルは、ネット配信の経路というボトルネック部分を押さえることで絶大なる影響力を握ることになる。過去の成功したビジネスの多くが、ボトルネック部分を押さえることで成功したように・・・。
市場の覇者となったアップルは、iPodの売り上げが好調で業績を拡大し続けている。iPodを利用したラジオ番組のネット配信など、iPodの周辺で新しいサービスが次々立ち上がろうとしている。
音楽メディアの世界では、新規参入のIT企業が既存プレーヤーを押さえて市場の覇者になったわけだ。
この原稿を書いている時点で、日本のiTunesでは、ソニーの楽曲が利用できないようになっている。それはソニーもまた自社のネット配信サービスで流通経路というボトルネック部分を押さえ、音楽市場の覇者になることを目指しているからだ。欧米では、覇権をアップルに譲ってしまった。せめてお膝元の日本市場ぐらいは押さえたいというところなのだろう。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-09-15 06:15
| 本の原稿