2005年 09月 16日
マスメディアの付加価値とは |
▼マスメディアの付加価値とは
既存のマスメディア企業は、このボトルネック部分を押さえることで力をつかんできた。テレビ局は番組製作のほとんどを下請け業者に委託しているといわれる。実際にコンテンツを作っているのは下請け業者なわけだ。しかし収益性ではテレビ局と下請けの製作会社では比較にならない。ボトルネック部分を押さえることこそが、高収益を上げる秘訣なのだ。
放送は免許制なので、免許を取得することでボトルネック部分を押さえることができる。しかし幾ら免許を持っていても利用者が少なければ、情報の流通量が伸びず、ボトルネックは生じない。利用者を増やし、流通量を増やすためには、いいコンテンツを取りそろえなければならない。どのようなコンテンツを取りそろえるのかが、既存マスメディア企業の付加価値である。この価値を高めることができた企業が、ボトルネック部分を押さえることができるわけだ。
立正大学の桂敬一教授は、新聞の価値がニュース記事に加えて、総合情報のパッケージにあると言う。限られた紙面という制約の中で、1つの世帯の中の家族のメンバーのそれぞれの情報ニーズに応えるべくバランスよく情報をまとめるのが、新聞の付加価値だというわけだ。確かに、テレビ欄、家庭欄など、家族のだれもが読むところがあるように新聞は工夫されている。家族の異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を集めたのが新聞というわけだ。
テレビ、ラジオも同じだ。時間という制約の中で、家族の異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を取りそろえなければならない。
インターネットには紙面や時間といった制約はない。ほとんど無制限に情報を掲載できる。ただやはりコンテンツ取得にコストがかかる。ヤフーなどのネット上の総合情報サイトは、一定額のコストという制約の中で、ユーザーが必要としている情報をバランスよく取り揃える工夫をしなければならない。ユーザーの異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を集めたのがネット総合情報サイトということになる。
つまり既存マスメディア企業のビジネスモデルをネット上で展開すれば、ヤフーなどの総合情報サイトと必然的に同じようなものになる。
新聞社やテレビ局、ラジオ局が今後、事業の軸足をネット上に移行させれば、当然のことながら同じビジネスモデルのネット企業と衝突することになるわけだ。
▼メディア化に邁進するネット企業
ネット企業は確実にメディア化の道を既に邁進している。
世界最大のIT企業である米ヤフーは、2001年に最高経営責任者(CEO)としてヘッドハントされたテリー・セメル会長は、ワーナー・ブラザーズの元CEO。同氏は、移籍の際に自分の部下を引き連れてきた。ジム・モロショク上級副社長も元部下の一人だ。最近でもテレビ局や映画会社出身者を次々と雇用している。
また今年に入り、ハリウッド近郊にヤフーセンターという名称の拠点を設置、メディア部門の従業員約1000人がそこで働いている。CNNやNBCの契約経験のあるフリーのフォトジャーナリストのケビン・サイツさんとも契約し、世界中の紛争地域から文章と映像、写真を送り続けるという。独自報道にまで乗り出し、メディア企業に脱皮しようとしているわけだ。
ネット企業大手の米グーグルは2005年夏に、新株発行で4000億円程度のキャッシュを手に入れた。何のためにというと、当然、どこかを買収するためにだ。
そこでどこを買収しようとしているのか、いろいろとうわさが流れた。グーグルは高騰を続ける株価を背景にした資金力で優秀な技術者を集めており、ほとんどすべての技術を自分たちで開発できる能力を持つ。ということは、技術力だけが欲しくて買収することはありえない。
一方、最近はグーグル社内で技術系社員と経営陣を含む事務系社員の間であつれきが生じているといわれる。もしかすると、経営陣は技術系社員を刺激しないように技術系以外の企業を買収するかもしれない。グーグルのネット事業との相乗効果が期待でき、しかも広告収入以外の収入源の柱を確立できるような企業なら、グーグルにとって最適の買収ターゲットになる。
そこでがグーグルが英ロイター通信を買収するといううわさが、金融関係者の間で飛び交い、ロイター通信の株価が上昇したことがある。
グーグルはグーグルファイナンスという個人投資家向け金融情報サイトの構築を進めているといわれる。ロイターの金融情報はまさに新サイトにうってつけだ。ロイターの金融機関向け情報サービスからの収益源を得ることができれば、景気に左右される広告収入だけに頼らなくて済むようになる。
一方のロイターはようやく赤字経営を脱却したが、その実態は大規模なリストラ効果によるところが大きい。収益の柱である金融機関向けの情報ベンダー事業での苦戦はまだ続いているし、今後市場拡大が見込まれるネットの分野でも新機軸を打ち出せないでいる。
そんな中、ロイター幹部がアナリスト向け説明会で、買収交渉の存在をにおわせるような発言をしたという情報も飛び交った。
グーグルがロイターを買収するのかどうかは分からない。しかし金融関係者が、グーグルによるロイター買収のうわさを可能性の高い情報とみなしたことは事実だ。
ネットの商業利用が始まった1995年ごろに、ロイターはヤフーの買収を検討したことがある。しかしロイターの当時の経営陣は、ネットの可能性、ヤフーの可能性を理解することができず、結局買収は実現しなかった。
その10年後。そのロイターが今度はネット企業に買収される側に立っている。歴史とは皮肉なものだ。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
既存のマスメディア企業は、このボトルネック部分を押さえることで力をつかんできた。テレビ局は番組製作のほとんどを下請け業者に委託しているといわれる。実際にコンテンツを作っているのは下請け業者なわけだ。しかし収益性ではテレビ局と下請けの製作会社では比較にならない。ボトルネック部分を押さえることこそが、高収益を上げる秘訣なのだ。
放送は免許制なので、免許を取得することでボトルネック部分を押さえることができる。しかし幾ら免許を持っていても利用者が少なければ、情報の流通量が伸びず、ボトルネックは生じない。利用者を増やし、流通量を増やすためには、いいコンテンツを取りそろえなければならない。どのようなコンテンツを取りそろえるのかが、既存マスメディア企業の付加価値である。この価値を高めることができた企業が、ボトルネック部分を押さえることができるわけだ。
立正大学の桂敬一教授は、新聞の価値がニュース記事に加えて、総合情報のパッケージにあると言う。限られた紙面という制約の中で、1つの世帯の中の家族のメンバーのそれぞれの情報ニーズに応えるべくバランスよく情報をまとめるのが、新聞の付加価値だというわけだ。確かに、テレビ欄、家庭欄など、家族のだれもが読むところがあるように新聞は工夫されている。家族の異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を集めたのが新聞というわけだ。
テレビ、ラジオも同じだ。時間という制約の中で、家族の異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を取りそろえなければならない。
インターネットには紙面や時間といった制約はない。ほとんど無制限に情報を掲載できる。ただやはりコンテンツ取得にコストがかかる。ヤフーなどのネット上の総合情報サイトは、一定額のコストという制約の中で、ユーザーが必要としている情報をバランスよく取り揃える工夫をしなければならない。ユーザーの異なる情報ニーズに対し、最大公約数的な情報を集めたのがネット総合情報サイトということになる。
つまり既存マスメディア企業のビジネスモデルをネット上で展開すれば、ヤフーなどの総合情報サイトと必然的に同じようなものになる。
新聞社やテレビ局、ラジオ局が今後、事業の軸足をネット上に移行させれば、当然のことながら同じビジネスモデルのネット企業と衝突することになるわけだ。
▼メディア化に邁進するネット企業
ネット企業は確実にメディア化の道を既に邁進している。
世界最大のIT企業である米ヤフーは、2001年に最高経営責任者(CEO)としてヘッドハントされたテリー・セメル会長は、ワーナー・ブラザーズの元CEO。同氏は、移籍の際に自分の部下を引き連れてきた。ジム・モロショク上級副社長も元部下の一人だ。最近でもテレビ局や映画会社出身者を次々と雇用している。
また今年に入り、ハリウッド近郊にヤフーセンターという名称の拠点を設置、メディア部門の従業員約1000人がそこで働いている。CNNやNBCの契約経験のあるフリーのフォトジャーナリストのケビン・サイツさんとも契約し、世界中の紛争地域から文章と映像、写真を送り続けるという。独自報道にまで乗り出し、メディア企業に脱皮しようとしているわけだ。
ネット企業大手の米グーグルは2005年夏に、新株発行で4000億円程度のキャッシュを手に入れた。何のためにというと、当然、どこかを買収するためにだ。
そこでどこを買収しようとしているのか、いろいろとうわさが流れた。グーグルは高騰を続ける株価を背景にした資金力で優秀な技術者を集めており、ほとんどすべての技術を自分たちで開発できる能力を持つ。ということは、技術力だけが欲しくて買収することはありえない。
一方、最近はグーグル社内で技術系社員と経営陣を含む事務系社員の間であつれきが生じているといわれる。もしかすると、経営陣は技術系社員を刺激しないように技術系以外の企業を買収するかもしれない。グーグルのネット事業との相乗効果が期待でき、しかも広告収入以外の収入源の柱を確立できるような企業なら、グーグルにとって最適の買収ターゲットになる。
そこでがグーグルが英ロイター通信を買収するといううわさが、金融関係者の間で飛び交い、ロイター通信の株価が上昇したことがある。
グーグルはグーグルファイナンスという個人投資家向け金融情報サイトの構築を進めているといわれる。ロイターの金融情報はまさに新サイトにうってつけだ。ロイターの金融機関向け情報サービスからの収益源を得ることができれば、景気に左右される広告収入だけに頼らなくて済むようになる。
一方のロイターはようやく赤字経営を脱却したが、その実態は大規模なリストラ効果によるところが大きい。収益の柱である金融機関向けの情報ベンダー事業での苦戦はまだ続いているし、今後市場拡大が見込まれるネットの分野でも新機軸を打ち出せないでいる。
そんな中、ロイター幹部がアナリスト向け説明会で、買収交渉の存在をにおわせるような発言をしたという情報も飛び交った。
グーグルがロイターを買収するのかどうかは分からない。しかし金融関係者が、グーグルによるロイター買収のうわさを可能性の高い情報とみなしたことは事実だ。
ネットの商業利用が始まった1995年ごろに、ロイターはヤフーの買収を検討したことがある。しかしロイターの当時の経営陣は、ネットの可能性、ヤフーの可能性を理解することができず、結局買収は実現しなかった。
その10年後。そのロイターが今度はネット企業に買収される側に立っている。歴史とは皮肉なものだ。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-09-16 06:32
| 本の原稿