2005年 09月 21日
既存メディア企業の逆襲 |
▼既存メディア企業の逆襲
SNSで首位に立ったマイスペースの次の目標は、ヤフーに追いつき追い越すことだ。クリス・デウルフ最高経営責任者は「次世代の大規模ポータル(総合情報サイト)を目指す」と臆することもなくその野心を語っている。
インターネットは、「見る」ものから「使う」ものへ、そして他の人と「つながる」ものへと、その用途が変化していくといわれる。ヤフーはテレビや新聞などのメディアと同様に、「情報を見せる」という形態を取っている。ネットは「多対多の双方向」で情報をやりとりできる仕組みなのに、これまでのメディア同様に「一から多への一方通行」から抜け切っていないわけだ。縦横無尽に走る高速道路の上に、まっすぐにしか走れない電車を走らせているようなものだ。
一方のマイスペースは「多対多の双方向」というネットの特性を活かした情報流通を実現している。音楽ビデオやコンサートスケジュールなどの情報は会員同士の口コミというルートで縦横無尽に流通されている。この口コミルートを使って新譜のプロモーションビデオを流すミュージシャンも登場しているほどだ。
新しいビジネスモデルでヤフーに果敢に挑戦するマイスペースだが、これ以上の新機能、新コンテンツを搭載するには資金が必要。資金力ではヤフーと雲泥の差がある。マイスペースに勝ち目はない、とだれもが考えていた。
そんな中、マイスペースを5億8000万ドルで買収することで、マイスペースの経営者に潤沢な軍資金を与えた企業がある。メディア王ルパート・マードック氏率いる国際的巨大メディア企業ニュース・コープだ。ニュース・コープはさらに、検索技術の会社の買収交渉に入っていることを明らかにしている。検索技術を搭載することで、マイスペースをヤフーに対抗できるような総合情報サイトにするつもりなのだ。
これまではネット企業側が既存メディアの領域に侵入してきた感があった。ところが既存メディア側から初めて逆襲の動きが出たわけだ。
翻って日本ではネット企業とメディア企業の戦いはどう展開するのだろうか。わたしは、ネット企業による大手メディア企業買収の動きはもうないと考えている。ライブドア騒動で、メディア企業社員は納得できない買収に対して徹底抗戦する人種であることが明らかになった。社員が最大の資産であるのメディア企業にあって、その社員が受け入れない買収は絶対に成立しない。このことは、ネット企業関係者もよく分かったことだろう。
反対に日本ではメディア企業がネット企業を買収することはあるのだろうか。小規模な買収はあるかもしれないが、例えば朝日新聞が楽天を買収するといった類の大規模買収が行われるとは考えにくい。それは欧米のメディア企業も同じだ。ニュース・コープの例を紹介したが、同社はメディア業界の中にあって例外的な企業だと思う。天才経営者のリーダーシップのもと企業買収を繰り返し急成長してきた企業である。そんな百戦錬磨の企業だからこそ、生き馬の目を抜くようなネット業界の厳しい競争の中で勝ち残ってきたハイテク企業と対等に戦えるのだ。
日本のメディア企業経営者には元新聞記者が多い。新聞記者が経営者に向いていないと言うわけではないが、一般論として、ビジネス現場の荒波を生き抜いてきた者のほうがビジネスの手腕は上、と言ってもいいのではなかろうか。経営能力は本人の資質によるところも大きいので、例外は当然あるだろうが。
それに新聞にとっての紙の事業、放送局にとっての電波を使った放送の事業といった本業の業績が1、2年で急速に悪化するとは考えにくい。10年、20年といったスパンの中で、軸足を徐々にネットのほうに移行させていくのだと思う。それとも本業が健全なうちに将来の流れを読んで、ネット事業に果敢に挑戦するメディア企業の経営者が出てくるのだろうか。
ではメディア企業が軸足を完全にオンラインに移行させたあとの、融合メディア業界の姿はどうなっているのかというと、わたしは今日のネット上の姿とそう変わらないのではないかと思っている。つまり、ほとんどの人のニーズに応えられる大規模メディアポータルが1つか2つ。大規模ポータルが取りこぼしたニーズに応える多数のニッチポータル。それにこうしたポータルにコンテンツやサービスを提供するコンテンツ提供者。この3業態が今後も続くのだと思う。
既存メディア企業が本格参入するときには当然後発となるわけだから、どの業態を目指すのか選択しなければならない。経営陣のプライドが邪魔をしてニッチポータルという現実的な選択をできない社も出てくるかもしれない。そうなれば、大規模メディアポータルの座を巡って、熾烈な戦いが繰り広げられる可能性もある。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
SNSで首位に立ったマイスペースの次の目標は、ヤフーに追いつき追い越すことだ。クリス・デウルフ最高経営責任者は「次世代の大規模ポータル(総合情報サイト)を目指す」と臆することもなくその野心を語っている。
インターネットは、「見る」ものから「使う」ものへ、そして他の人と「つながる」ものへと、その用途が変化していくといわれる。ヤフーはテレビや新聞などのメディアと同様に、「情報を見せる」という形態を取っている。ネットは「多対多の双方向」で情報をやりとりできる仕組みなのに、これまでのメディア同様に「一から多への一方通行」から抜け切っていないわけだ。縦横無尽に走る高速道路の上に、まっすぐにしか走れない電車を走らせているようなものだ。
一方のマイスペースは「多対多の双方向」というネットの特性を活かした情報流通を実現している。音楽ビデオやコンサートスケジュールなどの情報は会員同士の口コミというルートで縦横無尽に流通されている。この口コミルートを使って新譜のプロモーションビデオを流すミュージシャンも登場しているほどだ。
新しいビジネスモデルでヤフーに果敢に挑戦するマイスペースだが、これ以上の新機能、新コンテンツを搭載するには資金が必要。資金力ではヤフーと雲泥の差がある。マイスペースに勝ち目はない、とだれもが考えていた。
そんな中、マイスペースを5億8000万ドルで買収することで、マイスペースの経営者に潤沢な軍資金を与えた企業がある。メディア王ルパート・マードック氏率いる国際的巨大メディア企業ニュース・コープだ。ニュース・コープはさらに、検索技術の会社の買収交渉に入っていることを明らかにしている。検索技術を搭載することで、マイスペースをヤフーに対抗できるような総合情報サイトにするつもりなのだ。
これまではネット企業側が既存メディアの領域に侵入してきた感があった。ところが既存メディア側から初めて逆襲の動きが出たわけだ。
翻って日本ではネット企業とメディア企業の戦いはどう展開するのだろうか。わたしは、ネット企業による大手メディア企業買収の動きはもうないと考えている。ライブドア騒動で、メディア企業社員は納得できない買収に対して徹底抗戦する人種であることが明らかになった。社員が最大の資産であるのメディア企業にあって、その社員が受け入れない買収は絶対に成立しない。このことは、ネット企業関係者もよく分かったことだろう。
反対に日本ではメディア企業がネット企業を買収することはあるのだろうか。小規模な買収はあるかもしれないが、例えば朝日新聞が楽天を買収するといった類の大規模買収が行われるとは考えにくい。それは欧米のメディア企業も同じだ。ニュース・コープの例を紹介したが、同社はメディア業界の中にあって例外的な企業だと思う。天才経営者のリーダーシップのもと企業買収を繰り返し急成長してきた企業である。そんな百戦錬磨の企業だからこそ、生き馬の目を抜くようなネット業界の厳しい競争の中で勝ち残ってきたハイテク企業と対等に戦えるのだ。
日本のメディア企業経営者には元新聞記者が多い。新聞記者が経営者に向いていないと言うわけではないが、一般論として、ビジネス現場の荒波を生き抜いてきた者のほうがビジネスの手腕は上、と言ってもいいのではなかろうか。経営能力は本人の資質によるところも大きいので、例外は当然あるだろうが。
それに新聞にとっての紙の事業、放送局にとっての電波を使った放送の事業といった本業の業績が1、2年で急速に悪化するとは考えにくい。10年、20年といったスパンの中で、軸足を徐々にネットのほうに移行させていくのだと思う。それとも本業が健全なうちに将来の流れを読んで、ネット事業に果敢に挑戦するメディア企業の経営者が出てくるのだろうか。
ではメディア企業が軸足を完全にオンラインに移行させたあとの、融合メディア業界の姿はどうなっているのかというと、わたしは今日のネット上の姿とそう変わらないのではないかと思っている。つまり、ほとんどの人のニーズに応えられる大規模メディアポータルが1つか2つ。大規模ポータルが取りこぼしたニーズに応える多数のニッチポータル。それにこうしたポータルにコンテンツやサービスを提供するコンテンツ提供者。この3業態が今後も続くのだと思う。
既存メディア企業が本格参入するときには当然後発となるわけだから、どの業態を目指すのか選択しなければならない。経営陣のプライドが邪魔をしてニッチポータルという現実的な選択をできない社も出てくるかもしれない。そうなれば、大規模メディアポータルの座を巡って、熾烈な戦いが繰り広げられる可能性もある。
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-09-21 08:35
| 本の原稿