2005年 09月 28日
議論呼ぶイーベイによるスカイプ買収 |
▼議論呼ぶイーベイによるスカイプ買収
2005年9月。不可解な買収案件の発表があった。買収するのは、ネットオークションの米最大手イーベイ。されるのはインターネット電話の注目ベンチャー、ルクセンブルクのスカイプ・テクノロジーズ社。買収総額は、総額21億ユーロ(約26億ドル、2840億円)。おどろくべき高額だ。
イーベイはネットオークションの先駆者であり、最大手。日本市場でこそヤフージャパンに出遅れて撤退を余儀なくされたが、ほとんどの先進国で首位のネットオークション業者だ。
一方のスカイプは、電話業界の革命児。P2P、ファイル共有などと呼ばれる技術をベースにし、中央に交換機や大型コンピューターなどを不要にすることで、非常に低コストの電話網システムを構築した。スカイプのソフトを搭載したパソコンから一般の電話への通話は料金が発生するが、スカイプのユーザー同士の通話は世界中どこでも無料。音質もすばらしく、マイケル・パウエル米連邦通信委員会(FCC)前委員長が「スカイプを使ったとき、FCCの70年にわたる通信政策のこれまでのやり方は終わりを迎えたと感じた。世界は必然的に変わることになる」と語ったほどだ。
2002年の創業以来、利用者が急増を続け、2005年現在は全世界で5400万人。04年の売上高は700万ドル、05年は6000万ドルの見通し。
どういう理由で買収したのだろうか。イーベイによると、「コミュニケーションは電子商取引の中核」で、特にボートや自動車などの大型物件の売買にはメールのやり取りより、直接電話したほうが効率がいい、という。
確かにその通りなのだが、ネット電話機能を搭載したいのならソフト会社に開発委託するか独自開発する方が安上がり。大型買収の理由を説明できていない。
米国の情報通信業界に詳しいITジャーナリストの小池良次さんも「この買収はどうも納得がいかない」と首を傾げる。小池さんのブログ「小池良次の米国情報通信事情通信ブログ」によると、売り手と買い手がクリック1つで簡単に通話できるような仕組みは比較的安価に開発できるし、スカイプの客層はイーベイのそれとは異なるので相乗効果を期待できない、としている。「巨額の投資に見合うリターンがなければ、成金の『お大臣遊び』と影口を叩かれかねない」と結論づけている。
一方、ITニュースサイトCNETの人気ブロガー、渡辺聡さんは「投資家向けの発表資料も最後まで目を通してみましたが、目に見える範囲の部分、表現しやすいシナジーまでしか踏み込んでないですね。自社のストラテジーをむやみと公開する必要はないですし、堅いところを表現する必要があるので、こんなところでしょう。核心部分はリスク情報でもあるし上手いこと隠しているという印象を受けます」とブログに書いている。
では核心部分とは何なのか。渡辺さんは「今頃チャネルの拡大とユーザーの獲得(相互乗り入れ)を理由への売却は不自然と言えます。技術的にも納得のいくなんらかのビジョンがイーベイの側から示されて、納得して受け入れたと解釈するのが自然でしょう。今後競争環境がどう変わっていくか、自分たちはどっちに進むべきかで高いコンセンサスを得られたのではないでしょうか」と分析している。
わたしも渡辺さんと同じような感触を抱いている。いまはヤフーのようなポータル(総合情報サイト)全盛時代だが、今のポータルは「見る、聞く、読むメディア」である。テレビ、ラジオ、新聞などのメディアとしてのあり方をネット上で再現した程度でしかない。
ネットの特性は、紙面や時間の制約がないこと、情報の流れが双方向、多方向である、ということだ。メディアもこの特性を活かしたものに変化していくのだと思う。メディア(人と人の間に位置するもの)は、「見る、聞く、読む物」ではなく「人と人を効率よく、自由自在につなぐ道具」に変化していくのだと思う。
そして「見る、聞く、読むメディア」が広告とパッケージされることで産業になったように、「つながるメディア」は「物販」とパッケージされることで産業になるのだと思う。
イーベイとスカイプの経営者たちは、こうしたビジョンを共有したのではないだろうか。「つながるメディア」をスカイプが、「物販」をイーベイが担当するわけだ。今後スカイプは、いろいろなコミュニケーションツール、コミュニティーツールを搭載してくるのだと思う。一方のイーベイは、コミュニケーション、コミュニティーの中で、オークションだけでなく、あらゆる物販に業務を拡大していくような気がする。
いま新しいメディアの時代への移行期に、企業統合が起ころうとしている。メディアは「つながるメディア」であり、広告は「物販」と一体になったものになるだろう。
参考資料
「小池良次の米国情報通信事情通信ブログ」
M&A マンデー
http://blogs.itmedia.co.jp/ryojikoike/
「渡辺聡・情報化社会の航海図」
大型買収二件:SkypeとeBay
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/002343.html
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
2005年9月。不可解な買収案件の発表があった。買収するのは、ネットオークションの米最大手イーベイ。されるのはインターネット電話の注目ベンチャー、ルクセンブルクのスカイプ・テクノロジーズ社。買収総額は、総額21億ユーロ(約26億ドル、2840億円)。おどろくべき高額だ。
イーベイはネットオークションの先駆者であり、最大手。日本市場でこそヤフージャパンに出遅れて撤退を余儀なくされたが、ほとんどの先進国で首位のネットオークション業者だ。
一方のスカイプは、電話業界の革命児。P2P、ファイル共有などと呼ばれる技術をベースにし、中央に交換機や大型コンピューターなどを不要にすることで、非常に低コストの電話網システムを構築した。スカイプのソフトを搭載したパソコンから一般の電話への通話は料金が発生するが、スカイプのユーザー同士の通話は世界中どこでも無料。音質もすばらしく、マイケル・パウエル米連邦通信委員会(FCC)前委員長が「スカイプを使ったとき、FCCの70年にわたる通信政策のこれまでのやり方は終わりを迎えたと感じた。世界は必然的に変わることになる」と語ったほどだ。
2002年の創業以来、利用者が急増を続け、2005年現在は全世界で5400万人。04年の売上高は700万ドル、05年は6000万ドルの見通し。
どういう理由で買収したのだろうか。イーベイによると、「コミュニケーションは電子商取引の中核」で、特にボートや自動車などの大型物件の売買にはメールのやり取りより、直接電話したほうが効率がいい、という。
確かにその通りなのだが、ネット電話機能を搭載したいのならソフト会社に開発委託するか独自開発する方が安上がり。大型買収の理由を説明できていない。
米国の情報通信業界に詳しいITジャーナリストの小池良次さんも「この買収はどうも納得がいかない」と首を傾げる。小池さんのブログ「小池良次の米国情報通信事情通信ブログ」によると、売り手と買い手がクリック1つで簡単に通話できるような仕組みは比較的安価に開発できるし、スカイプの客層はイーベイのそれとは異なるので相乗効果を期待できない、としている。「巨額の投資に見合うリターンがなければ、成金の『お大臣遊び』と影口を叩かれかねない」と結論づけている。
一方、ITニュースサイトCNETの人気ブロガー、渡辺聡さんは「投資家向けの発表資料も最後まで目を通してみましたが、目に見える範囲の部分、表現しやすいシナジーまでしか踏み込んでないですね。自社のストラテジーをむやみと公開する必要はないですし、堅いところを表現する必要があるので、こんなところでしょう。核心部分はリスク情報でもあるし上手いこと隠しているという印象を受けます」とブログに書いている。
では核心部分とは何なのか。渡辺さんは「今頃チャネルの拡大とユーザーの獲得(相互乗り入れ)を理由への売却は不自然と言えます。技術的にも納得のいくなんらかのビジョンがイーベイの側から示されて、納得して受け入れたと解釈するのが自然でしょう。今後競争環境がどう変わっていくか、自分たちはどっちに進むべきかで高いコンセンサスを得られたのではないでしょうか」と分析している。
わたしも渡辺さんと同じような感触を抱いている。いまはヤフーのようなポータル(総合情報サイト)全盛時代だが、今のポータルは「見る、聞く、読むメディア」である。テレビ、ラジオ、新聞などのメディアとしてのあり方をネット上で再現した程度でしかない。
ネットの特性は、紙面や時間の制約がないこと、情報の流れが双方向、多方向である、ということだ。メディアもこの特性を活かしたものに変化していくのだと思う。メディア(人と人の間に位置するもの)は、「見る、聞く、読む物」ではなく「人と人を効率よく、自由自在につなぐ道具」に変化していくのだと思う。
そして「見る、聞く、読むメディア」が広告とパッケージされることで産業になったように、「つながるメディア」は「物販」とパッケージされることで産業になるのだと思う。
イーベイとスカイプの経営者たちは、こうしたビジョンを共有したのではないだろうか。「つながるメディア」をスカイプが、「物販」をイーベイが担当するわけだ。今後スカイプは、いろいろなコミュニケーションツール、コミュニティーツールを搭載してくるのだと思う。一方のイーベイは、コミュニケーション、コミュニティーの中で、オークションだけでなく、あらゆる物販に業務を拡大していくような気がする。
いま新しいメディアの時代への移行期に、企業統合が起ころうとしている。メディアは「つながるメディア」であり、広告は「物販」と一体になったものになるだろう。
参考資料
「小池良次の米国情報通信事情通信ブログ」
M&A マンデー
http://blogs.itmedia.co.jp/ryojikoike/
「渡辺聡・情報化社会の航海図」
大型買収二件:SkypeとeBay
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/002343.html
著者注:間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-09-28 17:21
| 本の原稿