CNN幹部を辞職に追い込んだブログ |
米国の著名ジャーナリストダン・ラダー氏の降板発表から5カ月後、米国のブロガーたちは次にニュース専門CATV局CNNのニュース部門の責任者イーソン・ジョーダン氏に照準を定めた。
ジョーダン氏は、1991年の湾岸戦争の際に関係当局と交渉し現場からの生映像を送り続けることに成功した人物。報道機関としてのCNNの基礎を築いた人物ともいえる。そのジョーダン氏が、ブロガーからの攻撃を受けて辞任に追い込まれたのだった。
事の発端は、2005年1月末にダボスで開かれた世界経済フォーラムでのパネル討論会でのジョーダン氏の発言だった。この討論会はオフレコで行われた。つまり会場にいたジャーナリストたちは発言内容を報じることができないということだ。オフレコを条件にすれば、討論者の忌憚のない意見を聞ける。主催者はそう考えたわけだ。
しかし会場にいた者のなかで、情報発信ルートを持っているのはジャーナリストだけではなかった。
ジョーダン氏は発言の中で、イラク戦争で米軍の砲撃により多くのジャーナリストが命を落とした事実を嘆いた。しかもそれが米軍の意図であるかのように話したという。ここの部分は、講演を録音したテープが公開されていないため正確なことは分からない。だが少なくともその場に居合わせたビジネスマンのロニー・アドビッツ氏は、ジョーダン氏の発言をそう受け止めた。
アドビッツ氏は、周りのジャーナリストにこの発言を記事にするのか聞いてみた。ジャーナリストたちは、オフレコの規則を理由に報道する気はなさそうだった。
それならばとアドビッツ氏は、世界経済フォーラムのブログに「イラクで米軍はジャーナリストを標的にしているのか」という一文を書いた。その中でアドビッツ氏は次のようにジョーダン氏の発言に触れている。
「イラク戦争中に死亡したジャーナリストの数が話題になった中で、ジョーダン氏はイラクで米軍の標的となって殺されたジャーナリストを12人知っていると断言した。彼は2、3回この主張を繰り返した」「公平さを保つために追加すると、彼はその後トーンダウンし、このことが真実かどうかしらないし、彼自身はこのことを信じていないと繰り返した。しかし突き詰められると、彼の発言はぶれた」
確かにジャーナリストが宿泊することで知られるホテルが米軍の銃撃に遭ったことがある。米軍はジャーナリストを狙ったのではないのかもしれないが、ジャーナリストの存在に無頓着だったのかもしれない。
ジョーダン氏はこうした現状に憤りを感じていたのだろう。
しかし国際会議の場で、米国の大手メディア企業の幹部が米軍を批判したのだ。米国に批判的な国の参加者に、米国を批判する格好の情報を与えたことになる。
アドビッツ氏のブログの情報は、ネット上を駆け巡った。
そして最も敏感に反応したのが、米国の保守派のブログだった。多くのブログは「米軍が故意にジャーナリストを狙ったというのであれば、その根拠を示せ」と主張した。
国際経済フォーラムの映像テープの公開を求める声もあった。しかし映像テープは公開されることはなかった。
ブロガーたちは、ジョーダン氏の過去の発言を次々と探し出した。ジョーダン氏は過去にも何度も、米軍とイスラエル軍がジャーナリストを殺そうとしていると発言していることが分かった。ブロガーの間からは、「湾岸戦争の際にCNNだけがバグダッド市内の重要な映像を撮影できたのは、サダム・フセイン大統領(当時)に魂を売ったからだ」「CNNがアルジャジーラの映像を入手できたのは、ジョーダン氏が反米の報道機関に擦り寄ったからだ」といった批判も飛び出した。
このままではCNNのブランド力まで低下することになると判断したのだろうか。ネット上での2週間の批判の嵐のあとに、ジョーダン氏は辞任を表明した。
最も活発な言論活動を行ったブログの1つ「キャプテンズ・クオーターズ」のエドワード・モリセーさんは、この騒動を次のように総括している。
「われわれ(ブロガー)は、少なくとも最初からジョーダン氏のグビが欲しかったわけではない。われわれが欲しかったのは、証拠だ。報道機関の幹部として、自分の主張を裏付ける証拠を公開する義務があるのではないだろうか。ご立派な(注:皮肉)メディア企業は、事実を確認する編集体制や公共性のバランスを持っているとずっと自慢してきたにもかかわらず、CNNのトップは(根拠もなしに)米軍を批判したのだ。
ジョーダン氏が証拠を持っていないことが明らかになったときにも、われわれはご立派なメディア企業がその事実確認とバランス感覚を見せてくれるのを辛抱強く待っていた。しかし伝統的報道機関は、ジョーダン氏の辞任の前日まで何も報道しなかった。ブログが大騒ぎを始めて2週間になるというのに」。
報道機関が互いの誤報を指摘しあうことは、もちろん頻繁にある。ただブログによる誤報の指摘は、ときには非常に厳しいものになる。ブログの普及で、読者との緊張関係が強化されたといっていいだろう。
【脚注】
世界経済フォーラムのブログの中のエントリー「Do US Troops Target Journalists in Iraq?」
http://www.forumblog.org/blog/2005/01/do_us_troops_ta.html
キャプテンズ・クオーター
http://www.captainsquartersblog.com/mt/archives/cat_cnn.php
ニューヨークタイムズの記事「Bloggers as News Media Trophy Hunters」2005年2月14日
http://www.urielw.com/refs/050214.htm
デイリー・スタンダードの記事「Eason's Fable」2005年2月17日
http://www.weeklystandard.com/Content/Public/Articles/000/000/005/253fssjz.asp
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。参考「本を書きます」

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