2005年 11月 28日
韓国の市民記者型ジャーナリズム |
▼オーマイニュース
参加型ジャーナリズムのもう1つの代表例とみられているのが、韓国のオーマイニュースだ。オーマイニュースは、2000年2月に雑誌記者だったオー・ヨンホ氏が創設したニュースサイト。「市民みんなが記者」がモットーで、登録さえすればだれでも記事を寄稿できる。登録を済ませた市民記者の数は3万数千人。一日に150本から200本の記事が寄せられるという。まさに参加型ジャーナリズムだ。
市民記者は自分の記事が使用されればこずかい程度の原稿料が入るようになっている。しかしトップニュースになっても原稿料は2万ウォン(約2000円)前後という。とても原稿料だけで生活できるレベルのものではない。市民記者のほとんどは、収入よりもジャーナリズムに参加することに意義を感じているようだ。
ただいい記事には読者からの「投げ銭」が集まるようにもなっている。ある哲学教授が憲法裁判所の批判記事を書いたら7000人の読者がこの教授に「投げ銭」を支払い、総額3000万ウォン(約300万円)にも上った。一般的なサラリーマンの年収と同額の原稿料が、1つの記事に対して支払われたことになる。
オーマイニュースを世界的に有名にしたのは、2002年の大統領選挙の際の言論活動だ。既存メディアが保守一色だった中で、オーマイニュースは革新派の盧武鉉候補を支持し、同候補の当選に大きく貢献した。当選後、同候補が応じた最初の単独インタビューはオーマイニュースだった。このことをみてもオーマイニュースの支持が、同大統領の当選にどれだけ大きく貢献したかが分かる。またオーマイニュースは韓国では、報道機関としての地位をしたといってもいいだろう。
2003年2月の韓国南東部の大邱市で起こった地下鉄火災の際には、現場で働いた消防士が市民記者として活躍した。その詳細にわたるリポートに、既存メディアは太刀打ちできなかったという。
実際にオーマイニュースはどのように運営されているのだろう。京都経済新聞社社長の築地達郎さんが、オーマイニュースを訪問し、詳しくリポートしてくれている。
業界関係者として思うのは、市民記者の原稿は本当に使い物になるのか、ということだ。事実をどう確認するのだろう。原稿をどのように手直しするのだろう、ということが非常に気になる。
市民記者としての登録の際に合意書を交わすようになっている。その中で、広告会社やマーケティング会社の関係者はその事実を明らかにした上で投稿しなければならない、と定めている。また剽窃や名誉毀損などの問題が発生した場合、全面的に市民記者の責任になる、としている。
しかし本当にその程度の合意書で十分なのだろうか。築地さんも同じような疑問を持っていたようだ。しかし、その疑問に対する答えはあっけないものだった。
この問題に関し毎日新聞もオー社長に取材している。そのときオー社長は次のように答えている。
また英ガーディアンのインタビューに対し「70%の市民記者は身の回りのことを書いている。西洋のジャーナリストから市民記者にプロ並みの報道ができるのか、という質問を受けることがある。誤解しているようだが、プロ並みの報道をしている市民記者はほとんどいない」と語っている。
オー社長は「(市民記者には、一般的な)ニュースの形式を気にしなくていい、と言っている。プロの真似はしなくていい、自分自身の言葉で語っていいんだ、と強調している」という。
ただ市民記者の中でもプロとして通用する人もいる。そういう人を積極的に社員記者として雇用するそうだ。オーマイニュースの社員記者の8割は、市民記者出身だという。
オーマイニュースでは、サイト上に一日に数十本の記事を載せるが、その3分の1が社員記者の手によるものらしい。
米ワイヤードの報道によると、オーマイニュースの読者という韓国系米国人の男性は「(オーマイニュースの記事は)人間味にあふれている。従来型マスコミの無味乾燥の客観報道ではない。もちろん独断も偏向もある。プロの記事ではないかもしれない。でも何が事実なのかは分かる。わたしは信頼している」と語っている。読者も従来型の報道とは異なるものと認識して読んでいるのだろう。
それでは、収益性はどうなのだろう。築地さんは次のように報告している。
オーマイニュースのオー社長は、同社が成功した理由を韓国独特のものとしている。
理由の1つは、韓国の既存メディアが保守寄りで、国民は別の議論を求めていたから。2つ目は、国民の75%がブロードバンド接続というネット先進国だから。3つ目は、韓国の国土が狭く、市民記者の記事の裏を取るために現場に向かう場合でも、2時間以内に現場に到着できること。4つ目の理由として、社会の関心が少数の問題に集中するという国民性を挙げている。そして最大の理由として、20代、30代の若者は革新的な考えを持っていて、実際に活動に参加する若者が多いからだとしている。
オー社長は「技術だけでは社会は変わらない。(変化を受け入れる)準備ができた人が社会を変えるのだ」と言う。
今年5月31日にイスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合で講演したオー社長は次のように語っている。
「オーマイニュースをスタートさせたのは2000年の2月22日午後2時20分です。2の数字が並んだ日時を選んだのは、20世紀型のジャーナリズムとは決別し、21世紀の新しいジャーナリズムを確立したいと思ったからです」「(市民記者は)だれが記者であり、どういう記事の書き方がよくて、どういうものにニュース価値があるか、という既存メディアのこれまでの常識を打ち破ろうとしています」「参加型ジャーナリズムは世界中に広がり、21世紀のジャーナリズムの中核になると信じています」。
脚注:
英米ガーディアンの記事「Hacks of all trades」(2004年7月22日)
http://www.guardian.co.uk/online/story/0,,1266031,00.html
英ガーディアンが行ったオー・ヨンホ氏インタビュー
http://www.guardian.co.uk/online/story/0,3605,1266031,00.html
日本経済新聞のサイトに掲載された京都経済新聞社築地達郎社長の記事
http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20040708s2000s2(既にリンク切れ)
米ワイヤードの記事「Citizen Reporters Make the News」(May. 17, 2003)
http://www.wired.com/news/culture/0,1284,58856,00.html
▼イスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合でのオー社長の講演(5月31日)
The End of 20th Century Journalism:
Oh Yeon Ho's conference speech in Istanbul
http://english.ohmynews.com/articleview
毎日新聞のオ・ヨンホ氏の特別講演
http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/it/net/news/20050613org00m300059000c.html
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。「過去エントリをそのまま記録として残すべきだ」「細かな修正を加えるたびにPINGが飛び、RSSリーダーにほぼ同じ原稿が表示されるので困る」などという意見をいただきましたので、ご意見、ご指摘をいただいても、エントリ自体を修正しないことにしています。ですが、建設的なご指摘、ご意見は、最終原稿に必ず反映させるつもりです。繰り返しになりますが、本エントリは未完成原稿です。引用を希望される場合は、脚注にある原典に当たられることをお勧めします。
参考「本を書きます」
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参加型ジャーナリズムのもう1つの代表例とみられているのが、韓国のオーマイニュースだ。オーマイニュースは、2000年2月に雑誌記者だったオー・ヨンホ氏が創設したニュースサイト。「市民みんなが記者」がモットーで、登録さえすればだれでも記事を寄稿できる。登録を済ませた市民記者の数は3万数千人。一日に150本から200本の記事が寄せられるという。まさに参加型ジャーナリズムだ。
市民記者は自分の記事が使用されればこずかい程度の原稿料が入るようになっている。しかしトップニュースになっても原稿料は2万ウォン(約2000円)前後という。とても原稿料だけで生活できるレベルのものではない。市民記者のほとんどは、収入よりもジャーナリズムに参加することに意義を感じているようだ。
ただいい記事には読者からの「投げ銭」が集まるようにもなっている。ある哲学教授が憲法裁判所の批判記事を書いたら7000人の読者がこの教授に「投げ銭」を支払い、総額3000万ウォン(約300万円)にも上った。一般的なサラリーマンの年収と同額の原稿料が、1つの記事に対して支払われたことになる。
オーマイニュースを世界的に有名にしたのは、2002年の大統領選挙の際の言論活動だ。既存メディアが保守一色だった中で、オーマイニュースは革新派の盧武鉉候補を支持し、同候補の当選に大きく貢献した。当選後、同候補が応じた最初の単独インタビューはオーマイニュースだった。このことをみてもオーマイニュースの支持が、同大統領の当選にどれだけ大きく貢献したかが分かる。またオーマイニュースは韓国では、報道機関としての地位をしたといってもいいだろう。
2003年2月の韓国南東部の大邱市で起こった地下鉄火災の際には、現場で働いた消防士が市民記者として活躍した。その詳細にわたるリポートに、既存メディアは太刀打ちできなかったという。
実際にオーマイニュースはどのように運営されているのだろう。京都経済新聞社社長の築地達郎さんが、オーマイニュースを訪問し、詳しくリポートしてくれている。
ソウル中心部の官庁街。OhmyNews社はその一角に建つ賃貸オフィスビルに本社を構える。2フロアに分かれたオフィスの広さは合わせても高校の教室 4つ分ほど。編集部門の部屋では、ところ狭しと詰め込まれた机にかじりついて、20人余りのスタッフが仕事をしている。
「一番手前が取材陣、2番目の“島”は記者から上がってきた記事をチェックするニュースデスク、そして3番目が『ニュースゲリラデスク』です」。案内役のミンさんが説明してくれる。
ニュースゲリラデスク――。これこそが、市民記者とサイト読者とをつなぐ重要な結節点だ。
市民記者から寄せられる原稿は1日に150本から200本。これを4-5人のニュースゲリラデスクが1本ずつ読み、掲載の可否を判定していく。掲載率は7割程度という。
業界関係者として思うのは、市民記者の原稿は本当に使い物になるのか、ということだ。事実をどう確認するのだろう。原稿をどのように手直しするのだろう、ということが非常に気になる。
市民記者としての登録の際に合意書を交わすようになっている。その中で、広告会社やマーケティング会社の関係者はその事実を明らかにした上で投稿しなければならない、と定めている。また剽窃や名誉毀損などの問題が発生した場合、全面的に市民記者の責任になる、としている。
しかし本当にその程度の合意書で十分なのだろうか。築地さんも同じような疑問を持っていたようだ。しかし、その疑問に対する答えはあっけないものだった。
答えは意外に簡単だった。「自分の意見を書いてもらえばいいんです」とミン氏。報道機関としての土台の部分は、実は35人のプロ記者集団が支えている。ハードなニュースや分析記事はプロ記者が書き、市民記者に期待するのは「エッセイ」や「書評・映画評」「メディア評論」などなのだという。
「氏名などコンファームしなければならないことは、書き手本人に電話をかければほぼ解決する場合が多い」とも。書き手本人の回答が不明朗なときはボツにすればいい。それだけのことだ。
この問題に関し毎日新聞もオー社長に取材している。そのときオー社長は次のように答えている。
オーマイニュースは新しいスタイルで既存の新聞を刺激し、補完することができた。オーマイニュースでは「記事の公式を破壊せよ」と市民記者に対していっている。専門記者の公式に従うことはない。
(ウラ取りに関しては)市民記者に専門記者と同じような正確さを要求している。ジャーナリズムの核たる部分だ。市民記者は倫理綱領に同意することを認める。綱領では事実を誇張しない、名誉毀損をしないなどがある。編集権も専門記者が行う。すべて同意しないと市民記者になれない。
専門記者はまず事実の確認をする。センシティブな記事は第三者に連絡して確認し、常勤記者が直接確認することがある。危険性は常にあり毎日緊張している。しかし、これまで訂正、謝罪したり訴訟を起こされたのは常勤記者の方が多い。市民記者(のトラブル)は10件に満たず内容もたいしたものではない。職業記者の方が傲慢で自信たっぷりで誤報を出すことがある。市民記者は自分の見たものだけを書く。一度、RHマイナスの血液を求めているとの記事を掲載したら、いたずらだった。そのときは報道と同じ大きさで謝罪した。
また英ガーディアンのインタビューに対し「70%の市民記者は身の回りのことを書いている。西洋のジャーナリストから市民記者にプロ並みの報道ができるのか、という質問を受けることがある。誤解しているようだが、プロ並みの報道をしている市民記者はほとんどいない」と語っている。
オー社長は「(市民記者には、一般的な)ニュースの形式を気にしなくていい、と言っている。プロの真似はしなくていい、自分自身の言葉で語っていいんだ、と強調している」という。
ただ市民記者の中でもプロとして通用する人もいる。そういう人を積極的に社員記者として雇用するそうだ。オーマイニュースの社員記者の8割は、市民記者出身だという。
オーマイニュースでは、サイト上に一日に数十本の記事を載せるが、その3分の1が社員記者の手によるものらしい。
米ワイヤードの報道によると、オーマイニュースの読者という韓国系米国人の男性は「(オーマイニュースの記事は)人間味にあふれている。従来型マスコミの無味乾燥の客観報道ではない。もちろん独断も偏向もある。プロの記事ではないかもしれない。でも何が事実なのかは分かる。わたしは信頼している」と語っている。読者も従来型の報道とは異なるものと認識して読んでいるのだろう。
それでは、収益性はどうなのだろう。築地さんは次のように報告している。
収益的にも成功と言える段階に来ている。収入の額は非公開としているが、収入の7割が広告で「そのうち週刊のダイジェスト紙(10万部)の広告が 20%」(ミン氏)。週刊ダイジェスト紙を創刊した1年ほど前の現地からの報道では「紙を出したことでようやく収支が合った」と言われていたから、この1 年間にネット上の広告が大幅に増えたことになる。
実際、サイトを見ると、LGやサムスン、SKテレコム、POSCOといった優良大手企業がこぞって広告を出稿するようになった。訪問時にもらったA4版の英文会社案内にも、大手企業の広告が大量に入っていた。
このほかに、ポータルサイトなどへのコンテンツ外販が収入の2割を占めるようになった。そして、残り1割は、読者から市民記者への“投げ銭”を仲介する手数料収入だという。“投げ銭”は携帯電話からのボタン指示で送る方式だ。
オーマイニュースのオー社長は、同社が成功した理由を韓国独特のものとしている。
理由の1つは、韓国の既存メディアが保守寄りで、国民は別の議論を求めていたから。2つ目は、国民の75%がブロードバンド接続というネット先進国だから。3つ目は、韓国の国土が狭く、市民記者の記事の裏を取るために現場に向かう場合でも、2時間以内に現場に到着できること。4つ目の理由として、社会の関心が少数の問題に集中するという国民性を挙げている。そして最大の理由として、20代、30代の若者は革新的な考えを持っていて、実際に活動に参加する若者が多いからだとしている。
オー社長は「技術だけでは社会は変わらない。(変化を受け入れる)準備ができた人が社会を変えるのだ」と言う。
今年5月31日にイスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合で講演したオー社長は次のように語っている。
「オーマイニュースをスタートさせたのは2000年の2月22日午後2時20分です。2の数字が並んだ日時を選んだのは、20世紀型のジャーナリズムとは決別し、21世紀の新しいジャーナリズムを確立したいと思ったからです」「(市民記者は)だれが記者であり、どういう記事の書き方がよくて、どういうものにニュース価値があるか、という既存メディアのこれまでの常識を打ち破ろうとしています」「参加型ジャーナリズムは世界中に広がり、21世紀のジャーナリズムの中核になると信じています」。
脚注:
英米ガーディアンの記事「Hacks of all trades」(2004年7月22日)
http://www.guardian.co.uk/online/story/0,,1266031,00.html
英ガーディアンが行ったオー・ヨンホ氏インタビュー
http://www.guardian.co.uk/online/story/0,3605,1266031,00.html
日本経済新聞のサイトに掲載された京都経済新聞社築地達郎社長の記事
http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20040708s2000s2(既にリンク切れ)
米ワイヤードの記事「Citizen Reporters Make the News」(May. 17, 2003)
http://www.wired.com/news/culture/0,1284,58856,00.html
▼イスタンブールで開催された世界新聞協会の年次会合でのオー社長の講演(5月31日)
The End of 20th Century Journalism:
Oh Yeon Ho's conference speech in Istanbul
http://english.ohmynews.com/articleview
毎日新聞のオ・ヨンホ氏の特別講演
http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/it/net/news/20050613org00m300059000c.html
著者注:本として出版するための原稿ですが、未完成なものです。間違いの指摘やご意見をいただければ幸いです。「過去エントリをそのまま記録として残すべきだ」「細かな修正を加えるたびにPINGが飛び、RSSリーダーにほぼ同じ原稿が表示されるので困る」などという意見をいただきましたので、ご意見、ご指摘をいただいても、エントリ自体を修正しないことにしています。ですが、建設的なご指摘、ご意見は、最終原稿に必ず反映させるつもりです。繰り返しになりますが、本エントリは未完成原稿です。引用を希望される場合は、脚注にある原典に当たられることをお勧めします。
参考「本を書きます」
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
by tsuruaki_yukawa
| 2005-11-28 18:00
| 本の原稿