慶應義塾大学千原啓さんの卒論 |
今後の展望のところだけを引用させてもらう。
超流通を新聞事業に取り込むことを提案しているのが、おもしろい。現実的かどうかは別にして・・・。
また確かに方向性は以下の通りなのかもしれないが、現時点ではこれらのビジネスモデルでは収益はほとんど上がっていない。この方向に進んでいいのかどうかも分からない。別のビジネスモデルが出てくる可能性もある。
5-1 新聞社のネット事業におけるサービスの方向性
新聞社のネット事業におけるサービスの方向性とアイディアを提案する。「4分析・考察」から、考えられるWebサービスの方向性としては、「垂直統合モデル」「報道特化型」「生活総合ポータル化」「グループウェア化・カスタマイズ化」という4つが予想される。ここでは、それぞれに関して提案を行う。
5-1-1 プラットフォーム構築
5-1-2 報道特化型=システムアウトソーシング型
5-1-3 生活総合ポータル化
5-1-4 カスタマイズ化
5-1-1 プラットフォーム構築
コンテンツ以外に何らかのシステムサービス提供し、それを他社も利用可能なプラットフォームとし収益モデルを作る。これはすでに、実際見られる動きでもある。産経新聞社の「NEWS VUE」に関して、産経新聞社・事業担当者は、「産経新聞の電子新聞システムでなく、その他の様々な出版社も利用できる配信プラットフォームにしていきたい」との意向を示している (CNET Japan : ブロードバンド : 定期刊行物配信プラットフォームを目指す産経新聞社『ニュースビュウ』2002年12月2日)。また、日経新聞社が提供するデータベース「日経テレコン 21」では、朝日・毎日が記事提供を行うなど、日経新聞社のコンテンツ以外も拡充しつつある。おそらく、上記のような、産経の「NEWS VUE」におけるビジョンと共通するものを描いてると考えられる。
こういった形で、コンテンツだけでなく、独自の強みをもったくシステムを提供し、他社のコンテンツも巻き込んでいくモデルが他にも登場する可能性はある。
5-1-2 報道特化型=システムアウトソーシング型
また、それとは逆に、報道に特化するという方向性もありうる。先述の通り、ポータルサイト、ニュース収集技術などの存在により、情報を伝える。総合的にサービスを提供するのでhななく、新聞社本来の役割である報道に特化しネット事業を展開するのである。新聞社はその強みである情報収集力・取材網を生かし、速報・解説を加えていく。他の部分は、ポータルサイト・プロバイダーにアウトソースする形で、新聞社の記事を利用してもらう。いわば、ネット事業においては、通信社に近いモデルとなることだ。今後はNewsMLのように、ニュースデータを効率的に管理運用できる技術が数々登場してくること予想される。そこで、新聞社が取材・報道に特化していても、マルチユースで情報サービスを展開できるであろう。
5-1-3 生活総合ポータル化
新聞社が提供する情報の強みのひとつとして、「必要性」が挙げられ、これはネットの課金の重要な要素であった。この視点から、「報道」という枠にとらわれず、生活に必要不可欠な情報を多く提供するモデルも考えられる。多くの地方新聞社では、その地域におけるポータルサイトを目指し、Webサイトを制作しているところも多い。現在よりも住民の視点から掲載情報内容がリファインされてくれば、地域住民にとっては、利用価値の高いものとなる。そして、これは、必ずしも新聞社自らがすべての情報を集める必要はなく、読者・市民からの声を収集し、情報が蓄積する形でWebサイトが制作されていくことも考えられるだろう。
5-1-4 カスタマイズ化
また個人の属性・興味関心・利用履歴などに応じて情報配信していく方向性も十分考えられる。日経新聞社は、ネットサービスの戦略として、e-CRM(電子顧客情報管理)の強化を掲げている(2001年4月27日「IT最前線@長崎大学」・「日本経済新聞社のIT戦略」電子メディア局局次長:木本芳樹より、2001 )。産経新聞のカスタイマズニュースサイト「ichimy」も同じような戦略を掲げていることと思われる。とさらに、上記の「生活総合ポータル化」の動きとあわせて、グループウェア機能を付与していく、という展開もある売るだろう。必要な情報を効率的に提供することに注力する。また、個人のWebでの行動履歴をマーケティングデータとして利用し、広告収入を効率的に確保することも容易となる。
5-2 定額式超流通を用いた、複数新聞社記事データベース
ここでは、今後の新聞社ネット事業の1つのモデルとして「定額式超流通を用いた複数新聞社記事データベース」を提案する。プラットフォーム構築の一例として位置づけることできる。
5-2-1 定額式超流通
5-2-2 定額式超流通を用いた、複数新聞社記事データベース
5-2-1 定額式超流通
「超流通」とは、1983年に森亮一筑波大名誉教授(現在神奈川工科大学教授)が無体物流通を目的として提唱した流通方式であり、デジタル情報の「所有」ではなく、利用記録に応じて、料金を徴収し再分配するシステムである(「超流通システムの開発」、1998、吉田茂樹・天野大緑、「The Superdistribution」)。音楽や映像などのデジタルコンテンツをネットワーク上での流通システムとして、現在も開発・導入が進められている。
これは、コピーの禁止ではなく、「ユーザーの自発的な再配布も含めて複製を「奨励」しながら、著作者が自らの著作物の利用をコントロールすることで対価を確実に徴収できるようにした」(Hot Wired Japan 「姿を現わし始めた『超流通』」、渡辺保史)として、著作者/消費者ともに利益を得る、画期的なシステムであるといえる。
ハッキング技術の向上やNapsterなどP2Pソフトの普及によって、コピープロテクトが意味をなさなくなっている今日、コンテンツ提供者と利用者の関係において、きわめて優良なシステムであると考えられる。 1990年代後半から、関連技術が本格的に開発されてきた。応用例としては、携帯電話での音楽配信の課金システムとして「超流通」の仕組みを採用しているほか(「ケーターイdeミュージック・コンソーシアム」)、マイクロソフトは、「Windows Media」ベースのファイルを「超流通」により複数の小売店に配布する事業を始めたなど、実用化の段階に入っている。
しかし、利用者の立場からして、従量課金のため、多くコンテンツを利用するのに抵抗感が付きまとう。
この難点を克服すべく、「定額式超流通」を提案する永井俊哉氏は、「複製にほとんどコストがかからないのだから、料金システムは定額式にすることができる」と主張している(「定額式超流通の提案」、永井俊哉)。これは、電機機器メーカーと著作権管理機関とインフラプロバイダが密接にリンクし、コンテンツの価値に合わせて利益を再配分するシステムである。一般消費者が機器を購入する際に、予め著作物利用料が課金されており、その利用料全体から、コンテンツへのアクセス数に合わせて、著作者たちへ配分がなされるシステムである。コンテンツに対する価値を推し量り、利益が的確に分配される、理にかなったシステムであるといえる。
5-2-2 定額式超流通を用いた、複数新聞社記事データベース
ここで、「定額式超流通」を新聞社のネット事業への応用を考える。
現在、新聞社から提供されている有料の記事データベースサービスは、基本料金に加えて、利用者に情報利用料を従量課金している。これは、「限界費用がゼロに近い」というインフォメーション製品の性質に適さないサービス提供のモデルである。情報が多く利用されたからと言ってコストが増えるわけではないから、定額を支払った利用者がおしみなくデータベースを利用できるモデルにするべきである。
この観点から、「定額超流通」と同様に、基本料金だけでなく、「情報利用料」も予め徴収する代金回収システムを提案する。まず、データベースの利用に関して、現在の基本料金に加えて情報利用料の分を足し、多めに料金を定額徴収しておく。利用者は、どれだけ記事を利用しても従量課金されない。
そして、利益配分における定額式超流通のメリットは、情報の利用された回数に応じて情報制作者に利益が配分される点にもある。このため、一社の記事によるデータベースではなく、複数の新聞社による定額式記事データベースにすることができる。それぞれの記事の閲覧回数を記録し、それに応じて情報利用料金を各新聞社に利益を配分する仕組みとする。
一つ一つの記事のページビューに応じて、利用料が。記事はWebページで表示する形式であるため、音楽・映像コンテンツにおける超流通システムで利用される「SDLR」のような特別な技術はいらない。閲覧情報さえ記録しておけば、記事提供者に多くの利用数に応じた利用料金の配分が可能となる。
また、決済の仕組みとして、新聞販売店を利用することができるだろう(参照:「5-2 新聞社のネット事業における代金回収」) 。このデータベースに参加する新聞社の新聞販売店をすべて利用できれば、営業力・集金力の点において大きなアドバンテージをもつことになるだろう。
このモデルを実現する主体としては、プロバイダー・通信事業者、単独の新聞社などが考えられる。
まず、プロバイダーなどの通信事業者が行なうことが考えられる。すでに、プロバイダーが複数の新聞社が契約を結んでいるケースも多いため、データベース事業においても、各新聞社の記事を横断的に提供する方向性もありうる。
他には、単独の新聞社が行なうこともできるだろう。現在最も、記事データベース運営のノウハウを蓄積している新聞社は、「日経テレコン21」を運営する日経新聞であるだろう。「日経テレコン21」では、自社の記事だけでなく、朝日新聞・毎日新聞の記事も利用できるようになっている。こう動向からもうかがえるように、戦略としては、なるべく多くの事業者のコンテンツが利用可能なデータベースを目指しているのであろう。今後こう言ったサービスを提供する可能性もあるといえる。
このモデルは、ネットビジネス的な観点からのメリットだけでなく、情報社会における情報メディアのあり方としても望ましい。紙の新聞においては、「一般紙の特性」として、「大量予約生産」が挙げられたが、これでは情報のソースが偏る可能性もあった。このモデルでは、様々なソースの中から1記事単位で情報を収集できる環境を作り出すことができる。