2004年 09月 01日
グーグルがニュースサイト、日本の新聞業界はどう出る? |
検索最大手グーグルの日本法人は9月1日から、ニュースサイト「グーグルニュース」を立ち上げた。同社の検索技術を利用して報道機関のニュースサイトから見出しと本文の一部などを集めてきて構築するニュースサイトは、見た目はまるでヤフーニュースのようだ。
ただあくまでも検索結果のページということで、記事の本文を見たければ元の報道機関のサイトにリンクを通じてジャンプしなければならない。同社は「(報道機関の)アクセス数向上に貢献するので、喜ばれるはず」(同社プロジェクトマネジャー、リチャード・チェンさん)という。とはいっても記事配信契約を報道機関と結んでいるわけではないので、報道機関の直接的な収益増にはならない。それどころか、ヤフーなど報道機関の配信料を支払っているポータルサイトがグーグルと同じ方法に切り替えれば収益減になる。
リチャード・チャンさんは、「(グーグル社内では)合法的なサービスであると認識している」というが、日本新聞協会は記事本文への直接リンクを基本的に認めないという姿勢を崩していない。読売新聞は記事の見出しとリンクを無断で利用されたと神戸市のデジタルアライアンスを提訴し、3月の第一審では敗訴したが、控訴するという。新聞業界とあつれきが生じるのは間違いなさそうだ。
グーグルによると、「クローラー」と呼ばれるソフトがインターネット上の日本語ニュースを掲載する約600のサイトを自動巡回し、ほぼリアルタイムで記事の見出しや本文の一部を収集してくる。巡回するサイトのリストには、日本の大手新聞社、通信社を始め、地方紙、専門紙、スポーツ紙、海外の邦字紙などのサイトが含まれるという。どのサイトを選ぶかは、グーグルのスタッフが判断する。サービス開始後すぐに、リストに含まれない複数の新聞社のサイトがリストへの登録を要請してきたという。反対に「リストから外してくれという要望にも応えます」とチャンさんは言う。
クローラーが集めてきた見出しや本文などの情報は、「クラスター技術」と呼ばれる技術で内容を自動識別し、同じニュースを取り上げている記事は1つのクラスターと呼ばれるグループにまとめられる。通信社の記事は複数の新聞社のサイトに掲載されることがあるが、そうした重複する記事は自動的に省略される仕組みにもなっている。
クラスターごとにまとめられた記事は、100項目以上の基準に基づいてニュースとしての価値判断が自動的に下される。例えば、短時間に1つのクラスターの記事数が急速に増加するということは、数多くの報道機関が1つのテーマで記事を次々と発信しているということ。すなわち重要ニュースということになる。このほか、日ごろからリンクされることの多い報道機関はそれだけ信頼されている証拠という考え方を基に、その報道機関の記事の価値を高く評価する。こうした基準を基にニュースの重要性を自動的に判断し、トップニュースとしてページの上の方に掲載する仕組みだ。
つまりグーグルニュースはすべて自動で生成される。人件費はゼロだ。報道機関とニュース配信契約も結ぶ必要がないので、コンテンツ料もゼロだ。「広告は掲載しない」とチャンさんは言うが、ランニングコストがゼロなので、収益源を確保する必要もないということだ。
ただグーグルは一部報道機関とコンテンツ連動広告の配信契約を結んでいる。報道機関のサイト上の記事の内容をグーグルのコンピューターが自動認識し、記事の内容に沿った広告をグーグルが配信するという仕組みだ。例えば、報道機関のサイト上のスポーツ関連の記事の横には、スポーツ用品メーカーの広告を自動的に表示する、というものだ。「グーグルニュースを通じてユーザーが報道機関のサイトへジャンプし、そこでコンテンツ連動広告を見てくれれば、報道機関とグーグルの双方の広告売上増につながる」(チャンさん)という。とはいうものの、日本の現状では報道機関に入ってくるコンテンツ連動広告の売り上げは微々たるもの。ヤフーなどのポータルサイトへの記事配信料に比べればすずめの涙程度だ。
米国では同様のサービス(当然英語)が2年前から始まっている。ネット上のほぼすべてのニュースを網羅しているし、ほぼリアルタイムで記事にアクセスできるので非常に評価が高い。The People's Choice Webby Award for best news siteや、Search Engine Watch AwardsのBest News Search Engine Awardなど、これまでに多くの賞を受賞している。報道機関に配信料を支払ってニュースサイトを構築しているヤフーが、支払っていないグーグルに負けているわけだ。
グーグルの広報担当者によると、米国でもサービス開始当初は一部報道期間から苦情が出たが、有力紙ワシントンポストが「アクセス数増加につながった」という声明を発表して以来、苦情が寄せられることはなくなったという。
冒頭に述べたように、日本新聞協会としては見出しの借用や記事本文への直接リンクを禁止するという立場を崩していない。グーグルによると、クローラーのリストから外してほしいという報道機関からの要請はまだ受けていないという。しかしサービス開始当日のグーグルニュースを見ると、大手報道機関1、2社が欠けていることが分かる。恐らくクローラーがサイトに入ってこれないように設定してあるのだろう。今後、同様の設定をしたり、リストからの削除を要請する報道機関が増えてくるのだろうか。
参加しない報道機関が多くなると、グーグルニュースの利用価値が下がる。報道機関が誘い合ってグーグルを拒否すると、確かに現状の秩序を維持できる。
ただグーグルを拒否する報道機関があまりに多くなると、これは世界的なニュースになってしまう。グーグルはつい先日、株式公開し巨額の富を手にしたことで、世界的に注目を集めているIT業界のホープだ。12カ国で開設されているグーグルニュースのサイトのうち、日本でだけ多くの報道機関が拒否したとなれば、海外メディアは日本の閉鎖性の一面としておもしろおかしく報じるだろう。
さて新聞業界はどう出るのだろうか。
わたしはグーグルニュースが日本でもいずれサービスを開始するであろうことをこれまで何度も新聞関係者に伝えてきた。これが時代の流れであり、新聞業界は新しいビジネスモデルを構築すべきだと訴えてきたつもりだ。
やはりグーグルニュースという津波がやってきた。そして向こうからRSSという大波が押し寄せてきているのも見える。それでもまだ防波堤を積み上げることに全精力を費やすつもりだろうか。
ただあくまでも検索結果のページということで、記事の本文を見たければ元の報道機関のサイトにリンクを通じてジャンプしなければならない。同社は「(報道機関の)アクセス数向上に貢献するので、喜ばれるはず」(同社プロジェクトマネジャー、リチャード・チェンさん)という。とはいっても記事配信契約を報道機関と結んでいるわけではないので、報道機関の直接的な収益増にはならない。それどころか、ヤフーなど報道機関の配信料を支払っているポータルサイトがグーグルと同じ方法に切り替えれば収益減になる。
リチャード・チャンさんは、「(グーグル社内では)合法的なサービスであると認識している」というが、日本新聞協会は記事本文への直接リンクを基本的に認めないという姿勢を崩していない。読売新聞は記事の見出しとリンクを無断で利用されたと神戸市のデジタルアライアンスを提訴し、3月の第一審では敗訴したが、控訴するという。新聞業界とあつれきが生じるのは間違いなさそうだ。
グーグルによると、「クローラー」と呼ばれるソフトがインターネット上の日本語ニュースを掲載する約600のサイトを自動巡回し、ほぼリアルタイムで記事の見出しや本文の一部を収集してくる。巡回するサイトのリストには、日本の大手新聞社、通信社を始め、地方紙、専門紙、スポーツ紙、海外の邦字紙などのサイトが含まれるという。どのサイトを選ぶかは、グーグルのスタッフが判断する。サービス開始後すぐに、リストに含まれない複数の新聞社のサイトがリストへの登録を要請してきたという。反対に「リストから外してくれという要望にも応えます」とチャンさんは言う。
クローラーが集めてきた見出しや本文などの情報は、「クラスター技術」と呼ばれる技術で内容を自動識別し、同じニュースを取り上げている記事は1つのクラスターと呼ばれるグループにまとめられる。通信社の記事は複数の新聞社のサイトに掲載されることがあるが、そうした重複する記事は自動的に省略される仕組みにもなっている。
クラスターごとにまとめられた記事は、100項目以上の基準に基づいてニュースとしての価値判断が自動的に下される。例えば、短時間に1つのクラスターの記事数が急速に増加するということは、数多くの報道機関が1つのテーマで記事を次々と発信しているということ。すなわち重要ニュースということになる。このほか、日ごろからリンクされることの多い報道機関はそれだけ信頼されている証拠という考え方を基に、その報道機関の記事の価値を高く評価する。こうした基準を基にニュースの重要性を自動的に判断し、トップニュースとしてページの上の方に掲載する仕組みだ。
つまりグーグルニュースはすべて自動で生成される。人件費はゼロだ。報道機関とニュース配信契約も結ぶ必要がないので、コンテンツ料もゼロだ。「広告は掲載しない」とチャンさんは言うが、ランニングコストがゼロなので、収益源を確保する必要もないということだ。
ただグーグルは一部報道機関とコンテンツ連動広告の配信契約を結んでいる。報道機関のサイト上の記事の内容をグーグルのコンピューターが自動認識し、記事の内容に沿った広告をグーグルが配信するという仕組みだ。例えば、報道機関のサイト上のスポーツ関連の記事の横には、スポーツ用品メーカーの広告を自動的に表示する、というものだ。「グーグルニュースを通じてユーザーが報道機関のサイトへジャンプし、そこでコンテンツ連動広告を見てくれれば、報道機関とグーグルの双方の広告売上増につながる」(チャンさん)という。とはいうものの、日本の現状では報道機関に入ってくるコンテンツ連動広告の売り上げは微々たるもの。ヤフーなどのポータルサイトへの記事配信料に比べればすずめの涙程度だ。
米国では同様のサービス(当然英語)が2年前から始まっている。ネット上のほぼすべてのニュースを網羅しているし、ほぼリアルタイムで記事にアクセスできるので非常に評価が高い。The People's Choice Webby Award for best news siteや、Search Engine Watch AwardsのBest News Search Engine Awardなど、これまでに多くの賞を受賞している。報道機関に配信料を支払ってニュースサイトを構築しているヤフーが、支払っていないグーグルに負けているわけだ。
グーグルの広報担当者によると、米国でもサービス開始当初は一部報道期間から苦情が出たが、有力紙ワシントンポストが「アクセス数増加につながった」という声明を発表して以来、苦情が寄せられることはなくなったという。
冒頭に述べたように、日本新聞協会としては見出しの借用や記事本文への直接リンクを禁止するという立場を崩していない。グーグルによると、クローラーのリストから外してほしいという報道機関からの要請はまだ受けていないという。しかしサービス開始当日のグーグルニュースを見ると、大手報道機関1、2社が欠けていることが分かる。恐らくクローラーがサイトに入ってこれないように設定してあるのだろう。今後、同様の設定をしたり、リストからの削除を要請する報道機関が増えてくるのだろうか。
参加しない報道機関が多くなると、グーグルニュースの利用価値が下がる。報道機関が誘い合ってグーグルを拒否すると、確かに現状の秩序を維持できる。
ただグーグルを拒否する報道機関があまりに多くなると、これは世界的なニュースになってしまう。グーグルはつい先日、株式公開し巨額の富を手にしたことで、世界的に注目を集めているIT業界のホープだ。12カ国で開設されているグーグルニュースのサイトのうち、日本でだけ多くの報道機関が拒否したとなれば、海外メディアは日本の閉鎖性の一面としておもしろおかしく報じるだろう。
さて新聞業界はどう出るのだろうか。
わたしはグーグルニュースが日本でもいずれサービスを開始するであろうことをこれまで何度も新聞関係者に伝えてきた。これが時代の流れであり、新聞業界は新しいビジネスモデルを構築すべきだと訴えてきたつもりだ。
やはりグーグルニュースという津波がやってきた。そして向こうからRSSという大波が押し寄せてきているのも見える。それでもまだ防波堤を積み上げることに全精力を費やすつもりだろうか。
by tsuruaki_yukawa
| 2004-09-01 17:26
| グーグルニュースの衝撃